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VAR制度教材: 笛と旗を遅らせることができる条件

J League 2024.4.21 第9節: 名古屋-C大阪での27分のオフサイドシーンがどんな状況で「笛と旗を遅らせる」ことができるかが複合的に盛り込まれているので取り上げ。

 

オフサイドポジションにいない攻撃側の選手がコーナーに向けて抜け出し、keeperが飛び出してサイドライン際での1対1になりかけたところで副審がオフサイドの旗を上げ、攻撃側の選手がkeeperをかわした瞬間に主審がオフサイドの笛を吹いた。

 

これまでJ Leagueで数回「オフサイドの旗と笛を遅らせる」事に付いての議論があったが、自分が知る限りほとんどが「遅らせることができない状況でその判断ができない」というものだった。
2021.3.3
川崎フロンターレ×セレッソ大阪

いわゆる戻りオフサイドでよくあるように、ボールがゴールへ向かわずサイドに向かい、そこから相手選手に向かってドリブルが始まっており、即座に旗を上げて笛を吹かなければならなかった。

youtu.be

 

2023.3.18
川崎フロンターレセレッソ大阪

攻撃側の選手が16m内でボールを持ったが、即シュートをせずにゴールとは逆方向にドリブルを始めたため、即座に旗を上げて笛を吹かなければならなかった。

www.youtube.com

 

・ルール

笛と旗を遅らせる事ができる状況について、競技規則にあるVAR Protocolの文章を掲載。残念ながらJFAが多少誤訳(文法的な記述方法の間違い)をしているので、原文の英語とその翻訳。

 

“Delaying the flag/whistle for an offence is only permissible in a very clear attacking situation when a player is about to score a goal or has a clear run into/towards the opponents’ penalty area”
(選手が今まさに得点しようとしている、または明らかに相手ペナルティエリア内に入ろうとしているか相手ペナルティエリア内へ向かっている非常に明確な攻撃的状況でのみ反則に対して旗や笛を遅らせることが許される)

 

ちなみにDFBによるドイツ語版とKNVBによるオランダ語版は「非常に明確な攻撃的状況」について国際的な解釈を盛り込んでより詳細に記述しているので、そちらも参考のために掲載。

 

(独) “Das verzögerte Anzeigen/Abpfeifen eines Vergehens ist nur in einer sehr klaren Angriffssituation zulässig, d. h., wenn ein Spieler gerade ein Tor erzielt oder ungehindert zum oder in den gegnerischen Strafraum läuft.”
(反則に対するシグナルと笛を遅らせることは非常に明確な攻撃的状況でのみ許される、つまり選手が今まさに得点を決めようとしている、または対戦相手のペナルティエリア内へフリーで向かっているか、対戦相手のペナルティエリア内でフリーでいる場合)

 

(蘭) “Het uitstellen van een vlag- of fluitsignaal in het geval van een overtreding is alleen toegestaan bij een overduidelijke aanvallende situatie waarbij een speler op het punt staat te scoren of een vrij veld heeft naar / in het strafschopgebied van de tegenstander.”
(選手が今まさに得点しようとしている、または相手ペナルティエリア内でもしくは相手ペナルティエリアへ向けてフリーなフィールドを持っている非常に明確な攻撃的状況でのみ反則に対して旗や笛を遅らせることが許される)

 

読んでのとおり笛と旗を遅らせることができるのは「反則」全般に対してであり、オフサイドに限定する理由はルール上は全く無く、国際的に各審判委員会によってオフサイドに限定されているという状況だが、それは今回のテーマでは無い。

 

・状況を分割
今回の状況を1つ1つ細かく分けて見ていこう。まずは攻撃側の選手が抜け出した方向がゴールに向かってだったら?単純なkeeperとの1対1であり、主審・副審にとって難しい事は全く無かっただろう。keeperに同様に詰められたとしても、背後にはがら空きのゴールがあり、かわしてシュートかすぐにシュートで即得点という状況なのは明らかだ。

 

今回はコーナーに向かう方向での抜け出しだったので、次にサイドライン際でのkeeperとの1対1の位置がもっとコーナーに近かったら?keeperをかわしても即シュートが非常に難しい角度であり、角度を得るために動いている間に守備側の選手がゴール前のカバーに間に合う可能性も非常に高く、ボールを持った攻撃側の選手には中央にフリーの味方もいないため、「非常に明確な攻撃的状況」とは言えないだろう。

 

サイドライン際での状況はそのままに、守備側の選手がゴール前により早く戻っていたら?ボールを持った攻撃側の選手はkeeperとの1対1で即シュートが可能な状況にあるが、ゴールは最早がら空きでは無く、守備側の選手がカバー可能になる。これはつまりkeeperが飛び出しておらず、守備側のフィールドプレイヤーが攻撃側の選手と1対1の競り合いに行っている状況と同じであり、やはり「非常に明確な攻撃的状況」とは言えない。

 

このように主審・副審はコーナーに向かって攻撃側の選手が抜け出した場合には、サイドライト際の状況と中央の状況を併せて判断しなければならず、今回は「コーナー方向への抜け出し」、「相手選手との1対1」、「攻撃側の選手に中央にフリーの味方がいない」という笛と旗を遅らせる事ができる状況が揃っていたものの、肝心のゴール前に守備側の選手がいないという重大な状況を忘れていた可能性が大きい。このようにコーナーへの抜け出しの際にはサイドライン際の状況と中央の状況を併せて判断しなければならず、経験と冷静さ、主審・副審の協力が必要とされる。