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VAR制度教材: 主審が見て判定していたかによる違い

この2週間のEredivisieで立て続けに興味深いビデオ判定シーンがあり、共にKNVBによって主審とVARとの音声通信が公開されたのでVAR制度の教材として記録。偶然にもどちらのシーンもVARを務めたのは経験と判断力において共に世界トップレベルのビデオ審判と認められているDanny Makkelieだった。

 

第20節: 2月2日(土) Vitesse - sc Heerenveen
主審: Martin van der Kerkhof / VAR: Danny Makkelie

 

状況: 2-1で迎えた88分、sc HeerenveenのFKの際、Vitesseのペナルティエリア内でホームチームのJake Clarke-SalterがアウエーチームのPelle van Amersfoortのシャツを引っ張ったが笛は鳴らず、クリアされたボールを拾ったVitesseがそのままカウンターから得点。

 

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Clarke-SalterとVan Amersfoortが共に倒れた時点で副審が「Danny、中央を見てくれ、引っ張られていた」とVARにチェックを申請。Makkelieは即座にチェックを開始し、リアルタイムのモニターを見ていたAVARが「Vitesseが得点」と告げた後にMakkelieは「Martin、まだチェックしているから再開を待ってくれ」と主審 Van der Kerkhofに連絡。

 

チェックで「かなりの掴み行為(vasthaouden)」と判断したMakkelieは(AVARは同時にオフサイドの可能性をチェック)、Van der Kerkhofの通信を再開し、「質問があるから聞いてくれ。得点前のペナルティエリア内で掴み行為があった。私の質問は『掴み行為が見えていたか?』だ」と主審が状況を見て判定したかを確認。それに対してVan der Kerkhofは「いや、2人が共に倒れたのは見えたが、誰が誰を掴んでいたかは分からなかった」と答えた事で、Makkelieは「オン・フィールド・レビューで映像を見に行くことを提案(voorstellen)したい」とOFRの実施を進言。

 

Van der Kerkhofは即座にOFR実施を決め、OFRの中でMakkelieはClarke-SalterがVan Amersfoortのシャツを引っ張り続け、持ち上げ、倒れたところにボールが来たと説明。Van der Kerkhofは最終的にファールによりPKと判定を修正した。

 

第21節: 2月10日(日) FC Utrecht - PSV
主審: Pol van Boekel / VAR: Danny Makkelie

 

状況: 1-0の29分、PSVのCKの際、ペナルティエリア内の競り合いでホームチームのTimo LetschertがアウエーチームのLuuk de Jongのシャツを引っ張ったが笛は鳴らず。

 

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VAR Makkelieは即座にチェックを開始。主審 Van Boekelは「今度も掴み行為だが軽度(te weinig)」と審判団内でコミュニケーションを取ってプレーを続けさせ、マッケリーのチェック中にリアルタイムのモニターを見ていたAVARが「ボールが出た。待って貰うか?」と連絡。Makkelieは主審に「ちょっと待ってくれ」と告げてチェックを続け、Van Boekelは「De Jongに対する掴み行為だが私としてはPKにする程では無い」と自分が見て判定していたことを説明。VARチームは状況を判断する最適の映像を見つけ(1:30)、Makkelieは「頭の上までシャツを引っ張っている」、AVARも「私は十分だと思う。かなり多く掴んでいる」と意見。

 

チェックを終えたMakkelieはVan Boekelとの通信を再開し、「FOXでも再生された映像。最初から最後まで間違いない確実な掴み行為。シャツをかなり持ち上げてもいる」と説明した。しかし「これは議論の余地があるシーン(discutabel)。君は自分で見ていただろ?」というMakkelieの問いかけにVan Boekelは「ああ、見ていて取らなかった」と答えた事でMakkelieは介入せずに終わった。

 

主審が見て判定していたかどうかによる大きな違い
非常に似通った2つのシーンで同じVARが同じ見解を出したにも関わらず、一方の行為は罰せられ、もう一方の行為は罰せられないという結論に。これはまず「VARがあくまで副審(アシスタント)であり、最終判定は主審が自らの判断基準で行う」という大原則に拠るものなのは言うまでもない。

 

さらに「VARがOFRを進言するかどうかは、主審が見えていたかどうかによって大きく異なる」というVAR制度の特徴が非常にハッキリと出た2つのシーンと言える。一方では主審が見えていなかったことでVARはOFRを進言し、もう一方では主審が見て判定したことでVARはOFRの進言を控えた。つまりMakkelieは後者も「100%の証拠のある明確な誤審では無い」と判断し、"discutabel is acceptabel"(議論の余地があるなら容認される)の原則に従った形だ。そのMakkelieの判断が正しかったかどうかは別にして、VAR制度の運用としてはどちらも的確に行われ、VARは状況を正確に認識した上で明確な誤審かどうかを判断し、それを主審に伝えた上で主審の判定を尊重するという『副審の役割』を正しく果たした。

 

全ては最終判定者 ファン・ブーケルのミス
ついでに同じFC Utrecht - PSVでの終盤の重大なビデオ判定シーンもKNVBが音声通信を公開したのでここに取り上げておく。

 

状況: 2-2で迎えた88分 PSVペナルティエリア内でPSVのDenzel Dumfriesが倒れ、その手がFC UtrechtのSimon Gustafsonの足に激しく接触して倒す形にとなったが、またしても笛は吹かれず。

 

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Makkelieはこのシーンの直後に「penalty」とほぼ確信を持ってすぐさまチェックを開始。AVARから「ボールが出た」と教えられた時点で主審に対して「Pol, ちょっと待って。君はどう見た?PSVの選手が滑り、Utrechtの選手に衝突し、その選手が倒された。君が見に行くには十分だと思う」とOFRを進言。なかなか動かないVan Boekelに副審も「Pol, 見に行くんだ」と進言し、Makkelieは2回「Pol, 聞こえてるか?」と呼びかけ。Van Boekelは「ああ、彼は足を滑らせてGustafsonと接触したというのが私の意見」と主審として自分の意見を主張。それに対しMakkelieが「確かに走ってきたPSVの選手が足を滑らせ、彼にはどうしようもなかったが、間違いなくUtrechtの選手を倒している。自分で見ることを是非助言したい。映像を見た上で自分で判断してくれ」とOFRをハッキリと進言したことで、Van Boekelは「OK」と遂にOFR実施を決定。

 

しかし驚くことにVan Boekelは映像を見ても「足を滑らせての接触。私は不十分だと思う」と判断し、Makkelieも「OK、君が判断しろと私も言ったからね」と通信を終えた。

 

日曜試合後のFOXの放送で毎週行われている、Zeistのリプレイ・センターからVARチームの監督者 Reinold Wiedemeijerが出演するコーナーでは彼がビデオ判定の経緯を説明した上で「Polの2つのミス」とコメント。どのメディアでも当然「Van Boekelが全て悪い」との論調で9割以上がまとまっている。