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VAR制度教材: リスタートを待たせるジェスチャーの効果的な使い方は?

5月30日に行われたJ League 柏レイソル - 北海道コンサドーレ札幌。前半終盤でのビデオ判定について起きた幼稚で無駄な議論についてまとめ。

【柏レイソル×北海道コンサドーレ札幌|ハイライト】明治安田生命J1リーグ 第17節 | 2021シーズン|Jリーグ - YouTube

 

なぜか試合中から「選手の抗議を受けてVARによるチェックが行われた」という謎の憶測がなされていたが、基本的なルールを知っていればその可能性は無いことが分かる。

 

  • “The VAR automatically ‘checks’ the TV camera footage for every potential or actual goal, penalty or direct red card decision/incident, or a case of mistaken identity, using different camera angles and replay speeds”
  • (VARは様々なカメラアングルとリプレイスピードを用いて、得点、ペナルティ、直接レッドカードの判定が実際に行われたあらゆる場合や、それらの可能性があるあらゆる出来事、または人違いのケースでTVカメラ映像を自動的にチェックする)

 

つまり今回のケースはオフサイドの反則でなければ得点の可能性があるため、オフサイドの判定が行われた時点でVARは自動的にチェックを開始する。これは絶対の原則であり、今回の状況でチェックをしないVARは常識的に考えて存在しない (非常識なVARがいるという前提で言っているなら別だが)。この言わば「当たり前」の大原則を知らない人が多いなら、それを周知する努力が必要かもしれない。例えば試合中継で実況者が果たせる役割は間違い無く大きいが、その実況者が進んで間違った認識から誤解を広めるのは話にならない。

 

リスタートを待たせるジェスチャー
無知による憶測から無駄で幼稚な議論が行われたのは、主審が片手を耳に当て、もう片手を伸ばす「VARのチェックが終わるまでリスタートを待って」のジェスチャーが時間を空けて行われたからだと言われている。

 

 

実際の主審の動きは観客が撮っていた映像でハッキリと分かる。
1. まず副審と話し合ってオフサイドの判定(0:50)
2. 抗議するコンサドーレ札幌の選手に説明し、キーパーにフリーキックを指示 (1:05~)
3. 再開のためのポジションに移動しながら、まだ抗議する選手と会話 (1:15~)
4. 柏レイソルの選手とも会話 (1:35~)
5. センターライン付近まで来てリスタートを待たせるジェスチャー(1:55)
6. ジェスチャーを続けたまま付近を動き、おそらく選手たちと会話 (2:40~)
7. スクリーン・ジェスチャーをしてスクリーンの前へ (3:35~)

www.youtube.com

 

前提として抑えておくべきなのは、この場合 リスタートを行うのは柏レイソルのキーパーと明確に限定されているということだ。そのため、主審は最初にキーパーに対して「VARがチェックしているからリスタートは笛を待って行うように」と指示をする。今回はそれが口頭で行われたのが2のシーンのはずだ。この時点でリスタートを待たせるジェスチャーをするべき?それをしても良かっただろうが、キーパーに口頭で伝えているならそこまで明確にする必要は無い。そもそもルール上 VARがチェックをしているのは100%明らかな状況だからだ。仮に2の時点でリスタートを待たせるジェスチャーをしたとして、そこからリスタートに適切なポジションに移動した後にもう一度ジェスチャーをするのはもっと不自然だ。主審はVARのチェックが終わるまで、最初の判定でする再開できる状況にして待つため、今回 主審がセンターライン付近まで移動してからジェスチャーをしたのはごく自然なことだった。

 

ただ (現場の審判員としては想像もしていないかもしれないが)「この状況でVARがチェックをしていると分からない人が多くいる」と最初から主審が認識できるなら、2の時点でジェスチャーを明確にするのがベストだったかもしれない。その場合、一旦ジェスチャーを解いてリスタートに適切なポジションに移動し、移動した後の5の時点ではではジェスチャーをせずにVARのチェックが終わるのを待つ、というのがスマートだろう。

 

ジェスチャーも最小限の使用で最大限の効果を得るのが望ましい
審判員 八木あかねが指摘しているとおり、「主審が片手を耳に当て、もう片手を伸ばすジェスチャー」は「VARがチェックをしている」という意味では無く、「VARがチェックをしているからリスタートを待って」の意味である。つまり一度それを明確に行えば、チェックが終わるまでそのジェスチャーを続ける必要はそもそも無い。実際今回のように長くかかると手を伸ばしているのは体力の無駄であり、主審も選手たちと同様にリラックスして待つ方が良い。

 

1つの考え方としては、この待ち時間で主審とコミュニケーションを取りたい選手もいる。主審がVARらと無線で話をしているならそれは避けるべきだが、VARがチェック中で通信が繋がっていない段階で、主審がずっとジェスチャーをしていると「近寄るな」という意思表示にも捉えられかねない。今回のように興奮している選手がいない状況で、主審から積極的に壁を作る必要は無いだろう。

 

将来的には稀なジェスチャーに?
VAR制度を導入してすでに数年が経っている欧州のいくつかのリーグで気づくのは、「主審が片手を耳に当て、もう片手を伸ばすジェスチャー」を多くの主審が行っていないことであり、それを見かけるのは稀だということだ。

 

実際 オランダでもまだEredivisie導入前の3年前でこの現象が起きており、このブログで取り上げている。以下その引用。

 

チェック・ジェスチャーをしないオランダの主審

今回のbekertoernooi kwartfinales 2試合で今さらながら気づいたのはオランダの主審はよほど必要に迫られなければ、チェックでリスタートを待たせる際に片手を耳に当て、片手を伸ばすジェスチャーをほとんど取っていないということ。ゴールを取り消されたFeyenoordのToornstraは「aftrapのポジションについていたら主審が突然 vrije trapで再開させて混乱が起きた。次はもう少し時間をおいて再開させて欲しい」と語っているが、そもそもVARがチェックをしていること自体に観客や選手たちがほとんど気づけていなかった。

 

むしろオランダの主審に目立つのは近寄ってきた選手に説明している姿。選手の質問する権利を尊重してコミュニケーションを重視するのはいかにもオランダ的ではあるが、レビューを行っていることはなるべく迅速かつ公に明確にする努力をして欲しいと思うのが自然だろう。

VAR制度とアタッキング・ポゼッション・フェイズ:ローダJCのゴール取り消しは正当か? - Mijn Feyenoord

 

当時はまだ多くの人がルールを知らなかったためにToornstraが若干不満を語っているが、すでにルールが周知された今ならジェスチャーが示されなくても不思議に思う人は誰もいないはずだ。