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多言語で読む競技規則 (5. ファウルと不正行為)

  1. ファウルと不正行為

続いて第12条。競技規則でも最も長い部分 “ファウルと不正行為” / “Fouls and Misconduct”です。『2. 主審』のアドバンテージの項でオランダ語・イタリア語は「反則」を2つの単語を並べて書くのが特徴という話が出ました。そこでは英語は”offence”, 日本語訳は反則、ドイツ語訳は”Vergehen”. オランダ語訳は”vergrijp of overtreding”, イタリア語訳は”un’infrazione o un fallo”とそれぞれ書かれていました。この第12条のタイトルはそれぞれどう訳されているのか?からまずは見てみましょう。

 

英語

日本語

ドイツ語

オランダ語

イタリア語

Fouls and Misconduct

ファウルと不正行為

Fouls und

unsportliches Betragen

overtredingen en

onbehoorlijk gedrag

falli e scorrettezze

 

日本語訳は英語をそのまま訳したようです。ドイツ語訳は”misconduct”を” unsportliches Betragen”(スポーツに反する振る舞い)、オランダ語訳は”fouls”はアドバンテージの項でoffenceの訳語にも出てきた”overtredingen”に、”misconduct”は”onbehoorlijk gedrag” (不適当な振る舞い)、イタリア語訳も同じくアドバンテージの項で出てきた” falli”を使い、”misconduct”は” scorrettezze” (場違いな振る舞い)としています。

 

・ファウルと不正行為の違い

さて、offence/反則、foul /ファウル、misconduct/不正行為の使い分けに意味はあるのでしょうか?考え始めるとわからなくなってきますが、具体的に項目を読んでいくと、オリジナルの英語はfoulもmisconductもほとんど使っていません。

 

(日) “ボールがインプレー時に反則があった場合にのみ、直接、間接フリーキックまたはペナルティーキックを与えることができる。”

 

(英) “Direct and indirect free kicks and penalty kicks can only be awarded for offences committed when the ball is in play.”

 

(独) “Direkte und indirekte Freistösse sowie Strafstösse werden ausschliesslich für Vergehen bei laufendem Spiel gegeben.”

 

(蘭) “Directe en indirecte vrije schoppen en strafschoppen kunnen alleen worden toegekend voor overtredingen en vergrijpen begaan terwijl de bal in het spel is.”

 

(伊) “I calci di punizione diretti e indiretti e i calci di rigore possono essere assegnati soltanto per infrazioni commesse quando il pallone è in gioco.”

 

上記は第12条の最初の文章で、これに続きそれぞれの処罰がされる場合の「反則」についての規定に入っていきます。つまりoffence = Fouls and Misconduct ということのようです。オランダ語訳だけ最初の文章で” overtredingen en vergrijpen”と並べていますが、その後は” overtredingen”だけで訳を済ませています。

 

他の項を見てみましょう。” 警告となる反則”の部分

 

(日) “別々に2つの警告となる反則が起きたならば(2つが近接している場合であっても)、2つの警告となる反則が犯されたとすべきである。例えば、競技者が必要な承認を得ずにフィールドに入り、無謀なタックルをしたり、ファウルやハンドの反則などで相手の大きなチャンスとなる攻撃を阻止した場合である。”

 

(英) “Where two separate cautionable offences are committed (even in close proximity), they should result in two cautions, for example if a player enters the field of play without the required permission and commits a reckless tackle or stops a promising attack with a foul/handball, etc.”

 

(独) “Zwei verwarnungswürdige Vergehen (auch wenn unmittelbar aufeinanderfolgend) sind mit je einer Verwarnung zu ahnden, z. B., wenn ein Spieler das Spielfeld ohne Erlaubnis betritt und ein rücksichtsloses Tackling begeht oder einen aussichtsreichen Angriff mit einem Foul-/Handspiel unterbindet.”

 

(蘭) “Als er twee aparte overtredingen worden begaan (zelfs kort na elkaar), dan moet dit resulteren in twee waarschuwingen. Bijv. als een speler het speelveld betreedt zonder de vereiste toestemming en een onbesuisde tackle maakt of een veelbelovende aanval onderbreekt d.m.v. een overtreding / hands etc.”

 

(伊) “Quando sono commessi due falli (o infrazioni) distinti e passibili ognuno di ammonizione, anche con un breve intervallo tra di essi, entrambi devono essere sanzionati con due ammonimenti, per esempio se un giocatore entra sul terreno senza autorizzazione e in seguito compie un’entrata pericolosa su una avversario oppure annulla un’azione d’attacco promettente con una fallo o un fallo di mano, ecc.”

 

ここではオリジナルの英語がfoul/handballと区別しています。これ以前に書かれているhandballの項では“ handball offences“と書いているので、handballはoffenceであるけれどfoulでは無く、つまりmisconductということでしょう (handballについては後で触れます)。

 

一般的にfoulは「相手選手への身体的接触を伴う反則」と認識されています。競技規則もそれを踏まえてわざわざ書いていないということのようです。実際文章の中で使い分けが曖昧な部分もあるためか、残念ながら各協会も翻訳の際にそれがどういう意味かを説明しておらず、言語によっては言葉の使い分けがわかりにくくなっていると言えるでしょう。特にオランダ語訳とイタリア語訳ではoffence/反則が最初”vergrijp of overtreding”, "un’infrazione o un fallo”と訳されていましたが、その後はほぼ”overtreding”, ”un’infrazione”で済まされています。イタリア語訳では“serious foul challenge”を“grave fallo di gioco”と訳してもいますので、厳密な訳し分けにはなっていません。幸いにも、別に分からなくても何の問題も無いという類のものではありますが…

 

とにかくfoulが「相手選手への身体的接触を伴う反則」ならmisconductは「身体的接触を伴わない反則」のことだと想像できます。ドイツ語訳では“misconduct“/“不正行為”が“unsportliches Betragen”(スポーツに反する振る舞い)と訳されていましたので、“Cautions for unsporting behaviour“/“反スポーツ的行為に対する警告“の項を読んでもほとんどがfoulには当てはまらないものであり、身体的接触を伴う場合も、それに追加する条件が求められます。続く“得点の喜び“や“ プレーの再開を遅らせる“もmisconductに当てはまるはずです。

まとめるとだいたいこのようになるでしょう。

 

英語

日本語

ドイツ語

オランダ語

イタリア語

offence

反則

Vergehen

(vergrijp en) overtreding

un’infrazione

(e un fallo)

Foul

ファウル

Foul

overtreding

fallo

Misconduct

不正行為

unsportliches Betragen

onbehoorlijk gedrag

scorrettezze

 

・ハンドの反則名

いわゆるハンドの反則の項です。日本では時に「ハンドではなくハンドリングだ」論争がありますが、まずは各訳語を見てみましょう。この項の見出しと、実際の文章での反則名の2つを並べてみます。

 

英語

日本語

ドイツ語

オランダ語

イタリア語

Handling the ball

ボールを手または腕で扱う

Handspiel

hands

fallo di mano

handball offences

ハンドの反則

Handspielvergehen

overtredingen

m.b.t. hands

fallo di mano

 

やはり目を引くのは英語の”Handling the ball”と”handball offences”の使い分けでしょう。日本語訳では前者はそのまま訳しながら、後者は「ハンドの反則」としたことで「手の反則」になってしまいました。ドイツ語ではHandspel (手でのプレー)という良い訳語があり、JFAが「ハンドプレー」と訳していたらこの反則への一般的な印象は多少違っていたでしょう。

 

オランダ語は普通に使われているhandsbal (手でボールを扱うこと) が正式な反則名だと思っていましたが、競技規則がhandsで済ませているとは思いませんでした。イタリア語はどちらもシンプルに「手での反則」で、handbalに対応する1単語が無いのが特徴でしょう。

 

・腕と肩の境界の定義

 

(日) “ハンドの反則を判定するにあたり、腕の上限は脇の下の最も奥の位置までのところとする。”

 

(英) “For the purposes of determining handball offences, the upper boundary of the arm is in line with the bottom of the armpit.”

(handballの反則を決定する際、腕の上部の境目は脇の下の下部と同じラインにある)

 

(独) “Ein Handspielvergehen kann nur vorliegen, wenn der Ball mit dem gemäss Grafik roten Bereich des Arms berührt wird.”

(Handspielの反則は図に示されているように腕の赤い部分にボールが触れた場合のみ発生する)

 

(蘭) “Voor het vaststellen van overtredingen m.b.t. hands, is de bovengrens van de arm in lijn met de onderkant van de oksel.”

(handsの反則を決定する際、腕の上部の境目は脇の下のくぼみの下部と同じラインにある)

 

(伊) “Ai fini della determinazione del fallo di mano, il limite superiore del braccio è da intendersi in linea con la parte inferiore dell’ascella.”

(fallo di manoを決定する際、腕の上限は脇の下の下部と同じラインで解釈されるべきである)

 

競技規則2020/2021でのこの新ルールはオリジナルの英語が難解な表現なのでどの協会も頭を悩ませた印象を受けます。一番シンプルなのがDFBのドイツ語訳で百聞は一見に如かずというもの。JFAの日本語訳の「脇の下の最も奥の位置」というのは正直意味が分かりません。Mario van der Endeはこのルールの扱われ方について「審判に解剖学の知識が必要」と何度かコメントしていますが、読み比べていても本当にそう感じます。“bottom of the armpit“というのが普通ではない言い回しで「脇の下の下部」と訳してみましたが、実際どこの部分のことか文章では分からないのが問題です。

 

・シミュレーションとツバメ

反スポーツ的行為に対する警告からの1文です。

 

(日) “負傷を装って、またファウルをされたふりをして(シミュレーション)、主審を騙そうとする。“

 

(英) “attempts to deceive the referee, e.g. by feigning injury or pretending to have been fouled (simulation)”

(例えば怪我を装ったり、ファウルを受けたふりをして主審を騙そうとする(simulation))

 

(独) “versucht, den Schiedsrichter z. B. durch das Vortäuschen einer Verletzung oder eines Fouls (Schwalbe) zu täuschen (Simulieren),”

(例えば怪我やファウルを装って(Schwalbe)主審を騙そうとする(Simulieren))

 

(蘭) “probeert een scheidsrechter te misleiden, bijv. door een blessure voor te wenden of te doen alsof er een overtreding op hem is gemaakt (“schwalbe”); ”

(例えば怪我を装ったり、ファウルを受けたふりをして(schwalbe)主審を騙そうとする)

 

(伊) “tenta di ingannare l’arbitro, ad esempio fingendo un infortunio o di aver  subito un fallo (simulazione); ”

(例えば怪我をしたり、ファウルを受けたふりをして主審を騙そうとする(simulation))

 

 

ドイツ語訳とオランダ語訳では「ファウルを受けたように装うこと」をSchwalbe (ツバメ)と言い換えています。もともとドイツ語での言い回しがオランダでも一般的になった例で、選手が手足を広げて倒れる様がツバメの飛ぶ様を連想させることから来ています。一般的な俗語が広まりすぎて競技規則でも普通に使用されている例です。

 

日本語訳では「シミュレーション」が「ファウルをされたふりをすること」の言い換えに見えますが、オリジナルの英語もその他(イタリア語も含めて)の訳も「主審を騙そうとすること」です。「例えば」の部分が訳されていないのも日本語訳だけです。