- その他の審判員
ここでは決定権を持つ主審以外の「その他の審判員」を扱う第6条を読んでみましょう。
(日) “試合には、その他の審判員(副審2人、第4の審判員、追加副審2人、リザーブ副審、ビデオアシスタントレフェリー(VAR)、および、少なくとも1人のアシスタント VAR(AVAR))を任命できる。その他の審判員は、競技規則に従って試合をコントロールする主審を援助するが、最終決定は常に主審によって下される”
(英) “Other match officials (two assistant referees, fourth official, two additional assistant referees, reserve assistant referee, video assistant referee (VAR) and at least one assistant VAR (AVAR)) may be appointed to matches. They will assist the referee in controlling the match in accordance with the Laws of the Game but the final decision will always be taken by the referee.”
翻訳の違いは各審判員の名称に現れます。
・言語ごとの名称
英語 |
日本語 |
ドイツ語 |
イタリア語 |
|
match officials |
審判員 |
Spieloffiziellen |
wedstrijdofficials |
ufficiali di gara |
assistant referees |
副審 |
Schiedsrichterassistenten |
assistent-scheidsrechters |
assistenti |
fourth official |
第4の審判員 |
vierter Offizieller |
4 e official |
quarto ufficiale |
additional assistant referees |
追加副審 |
Ersatz-Schiedsrichterassistent, |
aanvullende assistentscheidsrechters |
arbitri addizionali |
Video assistant referee |
ビデオアシスタントレフェリー |
Video-Schiedsrichterassistent |
videoscheidsrechter |
arbitro assistente video |
assistant VAR |
アシスタント VAR |
Assistent des VAR |
assistent VAR |
vice dell'arbitro assistente video |
もちろん昔ながら(1995年以前)の「線審」に当たる呼び方も今も使用されていたり、ドイツではVideo-SchiedsrichterassistentよりもVideo-Assistentの名称の方が一般的だったりと、競技規則での正式名称以外にも様々な呼び方が存在します。
こう見ると名称の付け方は言語によって実にバラエティに富んでいるのが分かります。副審はドイツ語だけ “Schiedsrichter-assistant(en)”は「審判+アシストする人」という逆の順番ですが、実際は単に” Assistent(en)”と呼ばれるのが普通だと思います。オランダ語のビデオアシスタントレフェリーはvideoscheidsrechterと「アシスタント」の意味が入っていませんが、オランダのフットボール協会 KNVBが最初にビデオ審判構想を持ち上げ、実際にテストし、IFABに導入を提案し、それを受けてIFABが「アシスタント」を加えてビデオアシスタントレフェリーとした経緯があります。オランダでは人気のホッケーがすでにvideoscheidsrechterの名前でビデオ審判を導入していたこともあり、この名称が既に浸透していたわけです。特に新しい審判員であるVideo assistant refereeをどう訳すかを見れば、決して英語からそのまま訳すのでは無く、言語ごとに自由な名称が付けられているのが分かるかと思います。JFAが追加副審のようにVideo assistant refereeもビデオ審判やビデオ副審と訳していたら理解度はだいぶ変わっていたかもしれません。
・ビデオ審判員
ビデオアシスタントレフェリー (以下 VAR)の登場によって、それまでの審判員は「フィールド上の審判員」と呼ばれるようになりました。次はVARとは何かを説明する文章です。
(日) “ビデオアシスタントレフェリー(VAR)とアシスタント VAR(AVAR)は「ビデオ」審判員であり、IFABが決定したVAR手順に基づき、主審を援助する。”
(英) “The VAR and AVAR are the ‘video’ match officials and assist the referee in accordance with the VAR protocol as determined by The IFAB.”
(伊) “L'arbitro assistente video, e i vice dell'arbitro assistente video sono definiti arbitri "video"; essi assistono l'arbitro in conformità al protocollo dell'assistenza video all'arbitraggio stabilito dall'IFAB.”
(ビデオアシスタントレフェリー、およびアシスタントVARは「ビデオ」レフェリーである。彼らはIFABによって定められたビデオ審判プロトコルに従ってレフェリーを援助する。)
他の言語が英語を忠実に訳しているのに対し、イタリア語だけなぜか「審判員」の正式名称” ufficiali di gara”を使わずに「ビデオレフェリー」 “arbitri video”と定義していました。
JFAは”protocol”を”手順”と訳しています。ドイツ語・オランダ語・イタリア語はそのままProtokoll/protocol/protocolloです。日本で「プロトコル」と書いてもなかなか通じないので訳すのは無難だと思いますが、実際VAR protocolの中身を読んでも「手順」よりも「決まり事」という意味合いが強いでしょう。ちなみに実際のVAR protocolは「VARの手順」と「の」が入っています。VARについては競技規則の最後にプラスアルファ要素として付け加えられたプロトコルに詳しく書いてありますので、あとはそこで触れましょう。
・副審の役割
競技規則では文章の一部が箇条書きで書かれている場合があり、こうした際には翻訳がテクニカルなものになることがあります。
(日) “副審は、次のときに合図をする:
◦ ボール全体が競技のフィールドの外に出たときに、どちらのチームがコーナーキック、ゴールキックまたはスローインを行うのか。
◦ オフサイドポジションにいる競技者が罰せられるとき
◦ 競技者の交代が要求されているとき
◦ ペナルティーキックのとき、ボールがけられる前にゴールキーパーがゴールラインを離れたかどうか、またボールがゴールラインを越えたかどうか”
(英) “They indicate when:
- the whole of the ball leaves the field of play and which team is entitled to a corner kick, goal kick or throw-in
- a player in an offside position may be penalised
- a substitution is requested
- at penalty kicks, the goalkeeper moves off the goal line before the ball is kicked and if the ball crosses the line
最初の文章はつまり「副審はボールが完全にフィールドを出た時に、そしてどちらのチームがコーナーキック、ゴールキックまたはスローインを行うかを合図する」というもの。この場合副審は「ボールが完全にフィールドを出た合図」と「どちらのチームがコーナーキック、ゴールキックまたはスローインを行うかの合図」を1つの動作で同時に行うので、上手い日本語訳になっています。一方で最後の文章は「副審はペナルティキックにおいて、ボールが蹴られる前にゴールキーパーがゴールラインから離れた場合と、ボールがラインを超えた場合に合図する」というものですが、「ボールが蹴られる前にゴールキーパーがゴールラインから離れていない場合」も「ボールがゴールラインを越えていない場合」も副審はその合図はしませんので、多少誤訳の匂いがします (このifはwennの繰り返しを避ける場合に使われるものに見えます)。何も合図をしないことが合図になっているという考え方もありますが…
他の言語で読んでみるとオランダ語もその書き方でした。
(蘭) “Assistent-scheidsrechters geven aan wanneer bij strafschoppen, de doelverdediger van de doellijn komt voordat de bal is getrapt en of de bal over de doellijn is gegaan”
(副審はペナルティキックでボールが蹴られる前にゴールキーパーがゴールラインから離れた場合と、ボールがゴールラインを越えたかどうかを合図する)
ドイツ語は間違いようが無い書き方です。
(独) “Die Schiedsrichterassistenten zeigen an, wenn sich der Torhüter bei einem Strafstoss/Elfmeter von der Torlinie wegbewegt, bevor der Ball mit dem Fuss gespielt wird, und der Ball die Torlinie vollständig überquert hat”
(副審はペナルティキックでボールが蹴られる前にゴールキーパーがゴールラインから離れた場合と、ボールがゴールラインを越えた場合に合図する)
イタリア語は接続詞の“se“がどちらとも解釈できるようで、はっきりしません…
(伊) “Indicano quando nell’esecuzione del calcio di rigore, il portiere si muove dalla linea di porta prima che il pallone sia stato calciato e se il pallone ha superato la linea di porta”