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VAR制度教材: 得点・penalty・RCに修正しない目的でのVARの介入例と透明性の重要さ

Premier Leagueで珍しいシーンがあり、あまり適切な説明がされていないのと忘れやすい手順なので備忘録代わりに紹介。

 

13.01.2021
Burnley - Manchester United

youtu.be

 

27分にMan UnitedのLuke Shawが相手と激しく接触、主審がおそらく見た上でno foulの判定をしてMan Unitedの攻撃が始まり、Burnleyの16m手前でRobbie Bradyが相手をファールで止めて主審はYC判定。ここでVARが介入し、主審は映像を見てBradyへのYCを取り消し、Shawがfoulをしていたと再判定してそのfoul playにYCを与えた。果たして一体何が起きたか?

 

Goal.comに対するPremier Leagueの説明:
27分にRobbie BradyはEdinson Cavaniに対するfoul playでYCを提示された。VARの勧めで主審 Kevin Friendは得点機会阻止によるBradyへのRCの可能性と、同じ攻撃局面でのLuke Shawのファールの可能性をチェックするためにレビュー・エリア(RRA)へ行った。主審はスクリーンの前でまずShawによるJohann Berg Gudmundssonへのチャレンジの映像を見せられ、彼はこれがfoulであり、Bradyのチャレンジに至るプレー局面の一部だと判断した。よってリスタートはBurnleyのFKであり、BradyのYCは取り消され、ShawにYCが提示された。

https://www.goal.com/en-us/news/premier-league-shaw-yellow-card-var-man-utd-burnley/1jic7crgz63ve159wd72wjlh71

 

この出来事の直後、Shawのチャレンジが非常に激しいものだったため、「ShawへのRCの可能性」でレビューが行われたとの説明が多く行われたが、そうでは無かったということになる。ここで重要なのは「ShawをRCで罰するのに得点機会阻止の時点から遡る必要は無い」「Shawがfoulを犯していると確信できる時点で得点機会阻止の状況は成立しない」という2点だ。Serious foul playでのRCは当然無条件で罰せられるものであり、また もしもVARがShawのファールが100% RCだと確信していれば、その後の得点機会阻止の状況は(Bradyのfoul playが過度なものとは判断しない限り)無視できるため、ShawのRCにだけ介入すれば済む。

 

実際 Premier League公式サイトのLive Match CommentaryでもVARが"No card change Luke Shaw" (ShawへのRCで介入はしない)、"Card upgraded Robbie Brady" (BradyのYCをRCに修正すべきと判断して介入)と判断したと説明している。

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https://www.premierleague.com/match/58896

 

修正できないと分かっての介入?
VARの判断が正しかったかどうかは別にして、VARがこのように判断した場合、まず問題は「VARはShawのfoulを確信して介入したのか?」ということ (この場合 主審がShawのチャレンジを見てno foulと判定していたなら、その判定修正にはそれがclear and obvous errorであることが必要となる)。状況的にさすがにfoulだとは確信していたと思われるが、その場合 その後の得点機会阻止の状況は成立せず、RCに修正することも当然できないため、状況はただの「YC誤審」で終わっており、VARが介入できる「(得点機会阻止で)RCかどうか」の状況にはなっておらず、得点機会阻止で出されたYCを取り消すために介入したように見える。

 

逆に言えば、VARが得点機会阻止でのRCは間違いなく、Shawのファールが確信できない (主審のno foulとの判定がclear and obvious errorでは無いと判断した)場合は分かりやすく、VARは主審にBradyのfoul playの映像を見せるだけで済むだろう。よって問題は「得点・penalty・RCでは無いとの判定がclear and obvious errorであり(もしくは得点・penalty・RCが見逃され)、かつそれに至る攻撃局面にclear and obvious errorかmissed serious incidentsがあった場合にVARは介入できるのか?」だ。

 

IFABはVAR handbookの中でこうした状況は「試合のマネージメントにとって容易ではなく、試合後の不必要な批判を避けるために主審は両方の状況について次のプレー停止時に情報を伝えなければならない」と書いた上で、主審に2つの選択肢を与えている。
・その前の反則によって得点・penalty・RCが与えられないと分かった上でレビューを開始する。
・両チームのキャプテンにその前の反則により得点・penalty・RCが与えられないと伝える。
一般的には全員に得点・penalty・RCが与えられない原因が明らかになる最初の選択肢が最善である。

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今回も最初の選択肢が選ばれたことになるが、それがただのfoul playでは無くRCが強く疑われるものだったのがTVで見ている人々に誤解が広まった原因だろう。重大なシーンで主審による2つの誤審が重なれば試合のマネージメントが困難になるのは当然であり、幸いにも実際ほとんど起きない非常にイレギュラーな状況だが、いざ起きた時のフィールド上の審判員とオペーレーションルームからの情報発信、判定理由と判定手順の透明性の重要さが改めて実感される出来事だった。