2018-2019シーズンから遂にエールディヴィジ全試合に導入されたビデオ判定。ザイストのKNVBリプレイ・センターからビデオ審判たちが試合を監視することで153試合で50の判定が修正された(個人調べ)。各クラブの監督とキャプテンはほぼ全員が使用継続を支持しているが、問題は少なくなく、KNVBと審判団が想定していただけの成果が得られているかは疑問の余地がある・・・
(以下: VARレビューによる判定の修正、またはOFRの実施を「介入」と記述。
OFRによる助言の却下はレッドカードかどうかのレビューによるイエローカードへの修正、重大な見逃しでの主審の裁量による判定保持を含む)
基本データ (独自集計)
153試合: ビデオ判定による修正/VARの介入 50/56回 (2,7試合に1回の介入. 106試合69%の試合で介入無し)
OFR実施 39回 (3,9試合に1回. 判定が修正されたのは32回. 82%)
ゴール対象の介入 14回 (+4/-10) (OFR2回 +0/-2) (OFRで却下された助言 -1)
PK対象の介入 25回 (+17/-6) (OFR15回+17/-5) (OFRで却下された助言 +1/-2)
レッドカード対象の介入 17回 (+15/-2) (OFR17回+15/-2) (OFRで却下された助言 +3)
選手誤認対象の介入 1回
(上記得点機会阻止によるPKかつレッドカードの介入が1回あり)
KNVBによるデータ発表。
主審に与えた影響
VARが与えた影響
前半戦では計29人の審判員がVARを務め、最も試合に影響を与えたのはカンプハイスで、担当6試合で介入5回(1,2試合に1回)、OFRも4回主審に実施させた。一方で担当5試合のカンティヌーも介入4回(1,3試合に1回)、OFR4回と高頻度。ゲズブユクは8試合担当して1回も介入しなかった。OFRで主審に助言を却下されたVARは5人おり、ディーペリンクだけ2回(主審はカイパースとマッケリーで、カイパースは却下したのがミスだったと認めた)。
審判員毎の担当試合数比較
上位主審グループではカイパースがVARの担当が極端に少ないが、ブロム、ファン・ブーケル、ゲズブユク、ヒフラーが8試合担当。主審としての担当数と併せればせいぜい4割であるのに対し、その下のグループの審判たちの『VAR担当試合数をVARと主審併せた担当試合数で割った値』は、ディーペリンク(0.7)、ファン・デル・フラーフ(0.67), ファン・デル・ケルコフ(0.5)、マルテンス(0.5)と主審担当数よりも多くVARでの試合をこなしており、さらにエールディヴィジでまだ主審デビューしていないVARはバイル、カンティヌー、ファン・デル・アイク、ヘレーツ、ファン・へルク、クリスティアン・ムルデル、ルペルティ、テウベンの8人で計33試合(全体の22%)を担当しており、リーグ開始直前に揉めたビデオ審判としての能力と雇用機会のバランスの問題が数字に表れていると言える。
(注: ナイハイスはシーズン途中で怪我のためピッチを離れてVARに専念)
クラブ毎の損得
Punten zonder VAR(VARがいなかった場合の勝ち点への影響)は『明らかに大きく試合結果に影響したビデオ判定』からの推測で、少なくとも12試合はビデオ判定が試合結果に大きく作用したと思われる。
顕著なのはアヤックスがビデオ判定がなければ勝ち点を大きく減らし、ヴィレムIIは大きく増やしていたかもしれない点で、最下位でウィンターストップに入ることになっていたかもしれないNACとあわせて、この数ヶ月だけで見れば多少の順位表への影響はあった。
もう一つ顕著なのはPSVがビデオ判定によって4つのPKを得て、対戦相手には3枚のレッドカードが出ている点。いずれもすでに数点差を付けている状況だったために試合結果に大きな影響は無かったが、プレースタイルによる影響は窺える。
ビデオ判定による誤審
主審が試合後にビデオ判定での誤審を認める、またはKNVB検察や規律委員会によってレッドカードが取り消される例がいくつか起きている。
第7節 FC Groningen - FC Utrecht 1-1
後半に主審 ナイハイスがグスタフソンにレッドカードがを出し、VAR マンスホットも支持したが検察が取り消し。
第7節 Feyenoord - Vitesse 2-1
後半ロスタイムに主審 ゲズブユクがファン・ペルシにレッドカードを出し、VAR vdケルコフも支持したが、規律委員会でトップ弁護士 ファン・ベンテムが勝利して無罪放免に。
第8節 FC Utrecht - NAC Breda 2-1
前半ロスタイムにコホがペナルティエリア内でグスタフソンと非常に軽い接触、主審 カイパースのPK判定にVAR ディーペリンクが介入したが、カイパースがOFRでも判定を変えず、試合後にも正しかったと主張したが、数日後に誤審だったと認めた。
第14節 Excelsior - FC Utrecht 3-3
後半主審 マルテンスがユトレヒトに与えたFKがVAR ブランクのレビューによってペナルティエリア内でのファールとしてPKとなり、3-3の同点ゴールに繋がったが、試合後にマルテンスがそもそもファールでは無かったと認めた。
第15節 VVV-Venlo - FC Groningen 0-0
42分にプロメスのファールに主審 ゲズブユクがレッドカードを提示も、VAR シメン・ムルデルの介入によってOFRを行った結果 イエローカードに。試合後にゲズブユクが修正は間違いだったと認めた。
第17節 Fortuna Sittard - FC Groningen 0-0
44分にVAR カンティヌーが「スメーツが相手を踏みつけた」と助言し、主審 リントハウトがOFRでレッドカード。しかし試合後に誤審だったと認め、検察がレッドカードを取り消した。
問題点は何か-
上記のビデオ判定による6つのミスの内、カイパース&ディーペリンクを除く5つは「VARのミス」、もしくは「VARのミスによる主審のミス」であり、そのVARは全員がオランダの上位審判ではない審判員たち。主審としての判断能力とビデオ審判としての判断能力は別物ではあるが、主審としての経験(もしくは能力も)が不足しているVARがミスを犯す可能性が高いのは実証されているように思える。
特に第17節で批判を浴びたVAR カンティヌーは今年10月にケウケン・カンピューン・ディヴィジにデビューしたばかりで、プロ・フットボールでは片手で数えられる程しか笛を吹いていない新米主審。KNVBの新しい審判育成プログラムによって輩出された将来性のあるタレントとして扱われているが、エールディヴィジのレベルでVARとして試合に加わるには少なくない困難を抱えている。
リーグ戦全試合でVAR制度を採用するにはもちろんエールディヴィジで笛を吹いている主審だけでは足りず、下のカテゴリーの主審たちがその資格を得て加わることになるが、本当に彼らでしっかり適切な判断ができるのか?VARとしてのトレーニング方法や資格基準に問題は無いのか?そうした点が今後の大きな課題だろう。VAR制度は基本的にトップ・コンディション用のものであり、主審のように下のコンペティションで経験を積んでエールディヴィジに上がってくるということはできない。それだけに試合に加わるまでのトレーニングがもっと有効に行われなければ、こうした問題は決して「小児病」では終わらないだろう。
また、エールディヴィジでは小スタディオンではカメラ台数6台から中継が行われており、常に的確な映像が得られる訳では無い。特にオフサイドポジションかどうかのビデオ判定で「出ているように見えるが確信を持てない」シーンでVARによって敢えて介入を見送ったり、敢えて介入して判定を修正させる多少の個人差が生まれていることは度々問題視されているが、有効な解決策は見つかっていない。