KNVBベーカーの2試合で遂にVARが世界初の公式戦でのライブテストされた。水曜のアヤックス-ヴィレムII戦ではデニー・マッケリーが主審、ポル・ファン・ブーケルがVARを務め、木曜のフェイエノールト-FC オス戦では反対にファン・ブーケルが主審、マッケリーがVARに。2試合ともいくつかのシーンでVARが主審に助言を与え、『試合を変える重大なシーンでの明確な誤審を防ぐ』というVARの有効性が今回も証明されたと言える一方、課題も新たに見つかっている。
アヤックス-ヴィレムII戦では前半まずバズールが決めたアヤックスの先制ゴールでハイコ・ヴェスターマンがオフサイドポジションに立っていたことが議論に。主審 マッケリー:「ピッチ上ですぐにヴェスターマンがオフサイドポジションにいるのは分かった。問題はルールに抵触しているか、我々が得点を取り消すべき状況かどうか。私はそのケースとは思わず、ポルも同意見だった。短時間に話し合った結果、得点をそのまま認めた」
これはVAR運用上の問題では無く、あくまでオフサイドルールの解釈上の問題であり、『VARが判定についての議論を消し去るものでは無い』という点が実際に証明されたケースと言えるだろう。ビデオ判定によって判定議論が無くなるのを怖れていた人々にとってはそれが杞憂に過ぎないと示されたことで安心に繋がるはず。
VARは全てのゴールで映像チェックを行っている。アヤックスの2点目のシーンでもドールベルフがコスタス・ランプルーを妨害していたようにも見えたが、マッケリーは「アヤックスの選手は何もしておらず、ランプルーは自分の動作ができる状況だった」とコメント。そのままゴールを認めている。ファン・ブーケル:「全てのゴールでチェックするのがVARのプロトコル。全てのゴールで我々はルールに抵触することが起きていたかどうかを見る。攻撃においてオフサイド、ファールがあったかだ。得点後の状況ならビデオ審判にはそれをチェックする時間もあり、試合再開やプレー再開までに得点を取り消すことができる」
当然そのケースではプレーが止まっているため、VARは問題なく映像チェックを繰り返すことができる。KNVBの統計では平均11秒で主審に助言できるとなっているが、問題はケネト・ペレスが繰り返し疑念を語っていたように「例えばPKが見逃されてプレーが続いたシーン」などでの運用だろう。相手スピッツにロングボールが入れば即座に相手の攻撃に移り、ピッチの反対側でのチャンスシーンになり得るため、VARの映像チェックと審判団の議論が間に合わなくなり、『試合を変える重大なシーンでの明確な誤審』が見過ごされる可能性は依然としてある。まずこうしたケースがライブテストで生まれることが期待されているが、幸か不幸か未だそれには至っていない。
アヤックス-ヴィレムII戦ではもう一つVARが重大な判定に関与したシーンがあり、これが今回のテストで最も重大な出来事だった。60分にアヌアール・カーリがラッセ・シェーネに対して激しく当たりに行き、主審 マッケリーは即座に笛を吹いてカーリにイエローカードを提示。しかし数秒後にレッドカードに修正、カーリはビデオ判定による公式戦退場者第1号となった。VAR ファン・ブーケル:「カーリのレッドカードはすぐに『おっ』と思った。ファールを複数の角度から数回見返し、100%レッドカードを出すべきシーンだととハッキリした」。マッケリー:「私の最初の見立てでは向こう見ずな当たりでイエローカードだったが、数秒でポルから汚いプレーでレッドカードだと伝えられた。確信が持てて疑いは無いかポルに確認し、明確だということだったので自分の判定を修正した。最終的には私のミスジャッジ。楽しくは無いが喜んでいるよ。ビデオ審判の有効性を証明するケースだ」
『試合を変える重大なシーンでの明確な誤審を防ぐ』というVARの目的が実践されたと言えるが、今回は主審がすでにイエローカードを提示していたため、『VARの運用ルール上問題』は無いのか、ヴィレムIIが翌日出たカーリへの出場停止処分を受け入れず規律委員会に抗議することに。
ヴィレムIIディレクター ファン・ホール
「これが『明確なミス』と言える出来事か?我々はそうは思わない。カーリがファールを冒したかどうかについては我々も議論は無い。問題はイエローかレッドか。我々はVARのパイロットに従ってやっているという点でも議論は無いはず。要は『ビデオ審判が使われるべき正当なシーンだったか?』の問題だ。規律委員会がビデオ主審がそれに使用できるものと考えるかどうかを我々は知りたい。我々の考えではそうでは無い。ピッチ上では何の混乱も起きていなかった。マッケリーがイエローカードで罰を与えた時に誰も抗議していなかった。それが突然レッドに変わったのは全ての人にとって驚きだった。ビデオ審判は試合を変えるシーンで明らかな、議論の余地の無い状況でのみ使われるという話だったはずだが、今回のファールではすでに多くの議論が起きており、そうした状況で無かったのは明らか」
「我々がこうしたシーンでビデ審判によって試合を止めることになるなら、将来かなり多くのシーンでそれが起きることになる。それは意図では無いはず。試合はまず何よりもプレーされなければいけないし、何度も止められるべきではない。主審は試合の流れの中で笛を吹くべき。彼はレッドでは無いと決めていたんだ。これが『これは明確な出来事か?』と疑問が生まれても、我々は”nee”と言う」
http://nos.nl/artikel/2133902-is-de-videoscheidsrechter-gebruikt-voor-een-juist-moment.html
あくまで映像での判断ではカーリへのレッドカードは正当とKNVB審判団の責任者 ディック・ファン・エグモント:「我々が望まない類いのファール。相手選手を危険に晒すものであり、深刻な怪我を引き起こしかねない。ピッチ上の審判には常にファールの重大さをしっかり判断できる訳では無いなのが問題だったが、映像でそれを判断することができる」
ファン・ホールの意見も正当な点はあり、プロトコルにより使用状況が制限されているVARの運用に対して、そもそも『明確な状況』という定義がフットボールのルール上明確なものかは確かに議論の余地を生む面がある。特に今回は主審がVARの助言を待たずに即座にイエローカードを提示していることで、現時点では審判団内で唯一違うルールに縛られているVARの権限がどう使われるべきか、将来への課題を提示したと言えるだろう。ちなみにKNVBのスポークスマン クーン・アドリアーンセはファン・ポールの抗議に対し、「ビデオ審判は所謂明確なミスの場合にができる助言でき、判定を修正できる」と主審がすでに判定を行っていても問題では無いとコメント。金曜に規律委員会はヴィレムIIの抗議を却下し、マッケリーは「ビデオ審判がいなくても第4審判が100%レッドだと言って私が判定を変えることはできた。これはルールにある。その点でビデオ審判だけ特別ということは無い」とヴィレムIIの主張には正当性が無いと語った。
運用上での課題が提示された一方で、VARが試合での重大な判定ミスを防ぐのに有効なのが示されたのも確かだとマッケリー:「即導入されるべき。審判にとって適切な判定をするのを容易にしてくれる。もし今夜 ポルの助けが無ければ、私は出すべきレッドカードを出さないミスをしているところだった」
ファン・ブーケルはプロトコル以外にもVARがフットボールに変化をもたらす可能性があると示唆。「将来に向けて我々の経験を全てフィードバックしていく。あらゆる場所でこれを始めなければいけないし、おそらく将来はいろいろなことが変わらなければいけない。我々は将来的には状況について観客とコミュニケーションを取れることを願っている。将来はそうなるかもしれない。我々は何一つ隠す必要は無いんだ」
ファン・エグモントは先週末のバス・ナイハイスの試合で再び話題になった判定への抗議問題についても、VARがポジティヴな影響を与えると期待。 「このやり方でリーグ戦全ての試合に導入できれば、判定に対する選手たちの振る舞いにも影響を与えると私は確信している」
2試合目のライブテストが行われたフェイエノールト-FC オス戦では1試合目に比べて重大な出来事は全く無く終了。唯一後半にオスのペナルティーエリア内でミヒル・クラーメルがドミニク・キヴヴと交錯して倒れ、ボールはそのままラインを割ってCKとなったが、主審 ファン・ブーケルがVAR マッケリーの助言を得てPKを与えるほど激しい押し引きは無かったとそのままCKを行わせた。