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ビデオ・アシスタント・レフェリー制度の有効性を証明したクラブWK

USLとKNVBベーカー、そしてFIFAが2つの練習試合で行った(セミ)・ライブテストを経て、FIFAの大会で初のVARが本格使用されたクラブWK。試行錯誤の末の『リスキーかつ大胆な判断』だったが、結果的には運営面の問題もほとんど無く有効性が示されたことで、期待以上の成功を収めたテスト大会だったと言えるだろう。

 

ビデオ判定の条件である「試合を変える重大なシーン」は平均して1試合に2~3回と見られており、その中でどれだけの頻度でVARの介入が必要になる『明らかな誤審』が生まれるかはライブテストがまだ20試合程度の現段階では未知数の部分が多いが、この大会の全7試合でVARが主審の判定に介入したのは2ケースだけ。その他のシーンでも主審が助言を求めた上で判定を下したシーンは多少あっただろうが、試合の流れへの影響を最小限に留めるという狙い通りに進んでいると見て良い。

 

今大会でのライブテストは2017年明けからライブテスト参加国へ最終許可を出すための最終チェックの意味合いを持たれていたが、世界各国から集められた審判団、VARのテクニカル面のスタッフ、TV中継局がわずか5日間の準備期間で実際に使用できたことは2018年のWKで使用というFIFAの目標に向けてのかなり大きな収穫だったはず。

 

【問題点】

VAR制度の運用上の疑問点が「果たして試合の流れに本当に付いていけるのか?」ということだったのは言うまでもない。これまでのテストではインプレー中の判断からそのままプレーが継続したことがほとんどと言って良いほど無く、VARが対応すべきケースがあってもその直後にプレーが止まっていたために主審とVARが問題なくやり取りをして判断できていた。この大会ではVARがスムーズに対応するためにアシスタントVARを置くという提案を受けて全試合でVARs3人体制でテストを実施。1人または2人の時とどれだけ差があるのかも今後テストを続けていかなければ分からないが、実際にVARsが介入したAtletico NacionalとKashima Antlersとの試合はかなり貴重なテストケースになった。

 

このケースでは攻撃側の選手にオフサイドの疑いもあるペナルティエリア内での守備側のファールからプレーが続き、『約1分近く経ってスローインでプレーが止まった段階で主審が再開を待たせ』、『1分近くVARsとのやり取りを続けた末にオン・フィールド・レビュー実施を決定』。『30秒ほどでPKの笛』を吹いた。

 

第1VARマッケリーは「ファールだと100%確信できるまで我々は試合を止めるのを待った」と述べているが、どの時点で100%の確信を持ったのかは残念ながら不明。100%確信できれば主審に助言し、インプレー中でもある程度ボールが落ち着いたところで主審が笛を吹いてプレーを止めることはルール上可能なはずだが、残念ながらそのケースはまだテストで発生していない。今回はオフサイドの疑いが絡んだこと、VARsが3人体制だったことで3人が100%の確信を持っていることを確認することに時間がかかったと推測できる。「明確な誤審」の定義問題を考えればVARs体制はメリットがあると考えられるが、判定のスピード化を考えれば見解の統一に時間がかかる怖れはあり、今後どのようにルール化されるかが興味深いところだろう。今回は「平均12秒で主審に助言できる」という統計データからすれば非常に時間がかかったレアケースであり、こうした「難易度の高いケース」でVARsの映像確信がどれだけスピーディにできるかは未知数の部分が多く、あまり期待は持てない。これがどれくらいの頻度で起き得るレアケースなのかもさらにテストを続けていかなければ分からない。

 

少なくともスローインの段階ではVARsは100%確信を持っていたとマッケリーはコメントしているが、今回のケースの最大の問題点はここから主審がオン・フィールド・レビューを行うまで1分近くかかったこと。これは唯一オン・フィールド・レビューのテストが行われていたUSLでも見られたが、主審がオン・フィールド・レビューの実行を決定するまでほぼ例外なく時間がかかっており、『VARsが主審に状況を説明して主審がオン・フィールド・レビューを行うかを決めるまでの音声コミュニケーションにかかる時間』はVAR制度(実際はオン・フィールド・レビュー制度の問題だが)の大きな壁になるはず。

 

一方でオン・フィールド・レビュー自体は30秒もかからずに終わり、USLのテストケースから予想されたよりもかなりスピーディに行われ、USLでの事前テストでの経験が活かされたと思われる。

 

「オン・フィールド・レビューが必要なのか?」の議論が今後生まれるかどうかだが、見込みは薄そうだ。マッケリーは「審判にとって完全に見逃した状況でPKを与えるのは非常に難しいこと」と主審の感情的な部分からも説明しており、IFABのテクニカル・ディレクター David Ellerayも「我々は世界中の選手や監督から主審が最終決定権を持ち続けて欲しいという明確なメッセージを受け取っており、だからこそ審判が直接映像を見に行く選択肢は常にある」とこの制度の必要性を述べていることから、このオン・フィールド・レビュー制度自体が無くなる可能性は現時点ではほとんど無いと言って良いだろう。

 

【改善点】

実際テストの現段階で問題なく行えている部分をさらに改善する必要性は無い。例えば直接レッドカードがビデオ判定の対象になるのに2枚目のイエローカードが対象にならないのはなぜか?という疑問もあり得るが、「極力試合の流れを妨げない」、「最小限の介入で最大限の効果を」というIFABの基本的方針からすれば、イエローカードを対象にするのは試合の流れを妨げるリスクを増やしすぎるため、まずはVARの確認と助言と主審の決定という流れをスムーズに行えるようになることが前提になることは言うまでもなく明らかだ。

 

時間がかかった際の判定の不明確さはIFABでも議論されているが、今のところ対応策は出されていない。フットボールは現状のルールでも何の判定か分からないシーンは時にあり、ビデオ判定のケースだけにIFABが将来的に何らかの対応策を作るかも興味があるところ。

 

【憂慮点】

制度自体はほぼ固まりつつあるが、これをFIFAの狙い通りに「世界中に広める」ことができるかどうかはまだまだ未知数。VARs、担当スタッフ、審判団のコミュニケーション能力の必要性が何度も強調されているように、この制度をスムーズに運営、実践するには個人個人にある程度の熟練度と能力が必要。これまでは各国を代表する審判団が笛を吹いている試合でトップ主審たちがVARを担当してきたが、実際にクラブWKではVARが間違えて通信ボタンを押したことでReal Madridの選手から批判されるアクシデントも起きた。今後テストケースが増えていく中で「ほどほどの能力の審判団とスタッフとVARで試合の流れが妨げられるリスクが増えないか」は注目されるポイントだろう。

 

【今後の流れ】

2017年からVARのライブテスト実施が認められているのは次の6カ国の組織。

Australia: Hyundai A-League

Brazil: several competitions under the umbrella of the CBF

Germany: Bundesliga (as a combined project between the DFB and DFL)

Netherlands: several competitions under the umbrella of the KNVB

Portugal: Taça CTT, Portuguese Cup and Super Cup

US: Major League Soccer

 

特に欧州ではリーグ戦の途中からライブテストを行うリーグがあるか不明であり、やはり普通にカップ戦でテストを行いつつ、2017-2016シーズンのリーグ戦でのライブテスト開始の準備を進めることになるだろう。2017年春のIFAB年次総会でVARs運用ルールの改定、さらに追加のテスト国の発表が行われる見込み。これまでのテストではほとんどの試合で問題は起きておらず、VARの介入が好意的に捉えられているが、クラブWKのAtletico Nacional-Kashima Antlers戦でのプレー差し戻しやKNVBベーカー PEC-ユトレヒト戦で疑わしいPKにVARが介入しなかったことで批判が起きたように、この制度が理解されて「フットボールの本質を代えるものではない」という理解を得られるまでにはまだまだ時間がかかる。