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ビデオ・アシスタント・レフェリー制度:今さらなQ&A

民放の代表戦やクラブワールドカップの放送はもちろん、どうやら各専門チャンネルセリエAや独ブンデスリーガの放送でも誰もちゃんと説明していないようなので、多分夏のワールドカップの放送でも誰も説明しないんだろうな~と思いつつ今さらなQ&A.

 

VARとは何?
ビデオ・アシスタント・レフェリー(Video Assistant Referee)の略。ビデオ副審。なぜかビデオ判定の名前と勘違いされている向きがあるのが不思議。少なくとも「VARもミスを犯す人間」と分かっていないと痛い目を見る。

 

VAR制度の目的は?
フットボールという試合の流れや感情の流れが重要なスポーツでどうやって競技の本質に影響を与えずにビデオ判定を導入できるか?というスタンスから、「最小限の介入で試合を変える重要な判定での明確な誤審を避ける」ことを目的としている制度。

 

「最小限の介入」というのはどのくらい?
現在のテストの統計ではMLSセリエAも独ブンデスリーガもだいたい3試合に1回ペースで誤審が修正されており、概ねこれが想定通りの数字という印象。少ないのに越したことは無いが、どんな優秀な審判団でもこれくらいのペースで明確な誤審が避けられないという数字に思える。

 

「試合を変える重要な判定」とは?
「ゴールかどうか」、「PKかどうか」、「直接レッドカードかどうか」、「選手誤認」の4つ。よく言われるようにイエローカードは2枚目でもビデオ判定の対象外。

 

VARは何をする?
試合中常に映像をチェックし、ビデオ・レビューによって主審の判定が「明確な誤審」と思った時に介入して主審に助言する。書くと簡単だが「明確な誤審」の基準がしっかりしていないとかなり厄介なことに。
水面下でプレーの流れに影響を与えずにビデオ・レビューを行えるのがVARを置くメリット。VARが介入しないということは「明確な誤審ではない」と判断しているということであり、ルールをよく知らないとビデオ判定をしていないと思っても実際はしている。

 

「明確な誤審」とは?
事実上定義不可能。IFABはとりあえず『中立なほぼ全員が判定が間違っていると同意する状況』と定義しているけれど、この定義にどれだけの意味があるのか実際よく分からない。「何が明確な誤審か?」がVAR制度では常に根本的な議論対象であり、現在のテストはこのテーマの立証実験と言って良い。・・・なのになぜかどの中継もこの部分を完全スルーしてVAR制度を説明しようとしているのが不思議。

 

主審がピッチサイドで映像を見るのは何?
VARは副審であり、最終判定者が主審なのは変わらないので、ファールなどの主観的な判定でVARの助言を受けた主審が「判定を修正する前に自分で映像を見たい」と思った時に行うもの。オン・フィールド・レビュー(OFR). OFRでVARの助言が却下される可能性は5%も無い印象なので、そもそも時間を掛けてやる必要があるか?と思わなくもないが、セリエAでテスト開始数試合で「重要なシーンは毎回主審が映像を見るべき」と監督からクレームが付くほど現場の声があるのでやむなし。

VAR制度ではビデオ判定の最終段階なので、大抵のシーンはOFRに行き着く前にVARのビデオ判定で「明確な誤審ではない」と弾かれる。

 

レビューをするのは誰が決める?
主審はVARがいないものと思って常に判定を行うのがVAR制度の基本ルールであり、主審の判定を受けてVARが明確な誤審の疑いを持った場合は「レビューするよ」と音声で連絡。主審がそれを受け入れてレビューが行われる。なぜこの「主審に決定権がある」という部分が誤解されて主審が一人で決めていると勘違いされている雰囲気があるけれど、むしろ主導権はVAR側にあると言って良い。「主審がVARの進言を受け入れるとは限らない」と思うなら、そもそも副審制度にケチを付けるべき。
主審は判定後に重大な見逃しや誤審があったかも、と思った場合は自分からVARに確認を求めることもできる。

 

チャレンジ権はないの?
VAR制度はそもそも「チャレンジ制度はフットボールには合わない」という前提で設計されている。VAR制度にチャレンジ制度を求めるのは愚の骨頂。VAR制度のメリットはVARによってプレーの流れを極力妨げずにビデオ判定を行えることであり、デメリットは明確な誤審の基準が曖昧なこと。チャレンジ制度ではそのメリットとデメリットが完全に真逆になるので、最初からIFABの選択肢に無いと思って良い。チャレンジ制度だと試合を止める権限を主審以外に与えるという点で競技規則との兼ね合いも難しい印象。

 

テストはいつまで?
2018年春か2019年春のIFAB総会でVAR制度を競技規則に入れるかどうかが決定される。さらに延長の判断もアリ。

 

VAR制度を導入するには?
現状はテストに参加するためにIFABの認可が必要。設備、人員の確保はもちろん、最低半年以上の(VARが主審とコンタクトを取らない仮想運用の)オフラインテストを試合で行って事前訓練を積んでおくことが必要。導入した場合もIFABのVARプロトコルを全て守らなければならないので、例えば「ゴールラインを割ったかどうかだけ使う」などの独自運用は認められない。

 

VARは何人必要?
1試合につき最低一人。FIFAは豪華にアシスタントVARもおいて3人体制で円滑運用のためのテストを行っているけれど、ほとんどの組織が1試合1人でやっているはず。

 

VAR制度を導入する費用は?
リーグ戦全試合に導入している組織でも発表している額が約100万~約300万ユーロとピンキリ。多分人件費の差。VARに求められる資格が定められておらず、主審クラスを使っている組織からよく分からない審判員を起用しているところまで様々。

 

VAR制度のデメリットは?
明確な誤審の基準をVARが持てないと大きな混乱を引き起こすことが今シーズン前半の独ブンデスリーガで証明された。ピッチ上の審判団もある程度の能力が無いと1試合に何度も明確な誤審が起きて「最小限の介入」にそもそもならず、試合が止まってばかりになる。VARと審判団が有能だと非常に有益な制度だが、どちらか一方でも有能で無いと非常にストレスが溜まる制度なのは確か。