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ビデオ・アシスタント・レフリー制度はフットボールを変えてしまうのか?-主審のビデオチェックへの危惧

IFABがビデオ判定の手段としてビデオ・アシスタント・レフリー(VARs)を導入するためのテスト期間として設けた2年間が始まり、FIFAが決定したテスト国6カ国の公式戦でのライヴテストを前に、練習試合やクローズド・コンペティションでのライブテストがすでに開始されている。アメリカで行われたIFABのVAR第2回ワークショップでユースの試合において世界で初めて実際の試合でライブテストが実施され、数日後にはオランダでのPSV-FC アイントホーフェンの練習試合でもライブテストを行っていたとKNVBが後日発表。そして8月12日にユナイテッドサッカーリーグ(USL)のリーグ戦でVARがライブテストされ、試合のフル動画がYouTubeに上げられた(USLメジャーリーグサッカー(MLS)との入れ替えの無い北中米の独立したリーグ(クローズド・コンペティション)であり、IFABとテスト国に選ばれたアメリカが共同でライブテストの実施場所に選んだと思われる)。

 

基本的前提として、IFABが判定にビデオを用いることを認めたのは「ゴール(オフサイド・ケースを含む)、PK、直接レッドカード、選手誤認の『試合を変える』4つのケース」のみ。VARはピッチ外でリアルタイムでのモニターチェックを行い、該当するケースでは任意にピッチ上の主審に対して助言を行えるというのがVAR制度の骨格であり、「審判団が何が起きたか分からない状況をなるべくなくしつつ、プレーの流れを妨げずによりフェアな判定を行うため」というのがIFABの掲げた導入目的である。IFABとFIFAの管理のもとで現在テスト国に選ばれた6カ国(オーストラリア、ブラジル、ドイツ、オランダ、ポルトガルアメリカ合衆国)が事前準備と(VARが審判団とコンタクトを取らない)オフラインテスト、練習試合レベルでのオンラインでのライブテストを行っており、それらのテストを踏まえて今年年末の日本でのクラブ・ワールドカップでライヴ・テストを実施。大きな問題が無ければ、テスト国6カ国全てでライブテストの準備が整うと予想される年明けから、公式戦でのライヴテストが許可される見通し。そこから少なくとも1年半をかけて最終的なVAR制度を作り、最終的には選手側の意見も取り入れて2018年2/3月のIFAB年次総会でVAR導入が決定される流れになる。

 

誤解を招かないために言えば、ビデオ判定は審判団に認められた権利であり、決して義務では無い。また、選手や監督、スタッフにビデオチェックを要求する「チャレンジ」の権利は与えられない。VARを導入しても全ての判定で誤審を防げる訳では無く、例えばオフサイドで無かったシーンで主審がオフサイドの笛を吹いてしまった場合には、その時点でVARは全く介入できないことになる。フットボールのルールは依然として主観による部分が残されており、VARが導入されても判定への議論は止まないだろう。あくまで目的は「よりフェアな判定」を行うためである。

 

先日のUSLの New York Red Bulls II対 Orlando City Bの試合で行われたライヴテストの動画でどうしても目を引いてしまうのは、主審が自らピッチサイドのモニターでビデオチェックを行った2回(36分と82分)のシーンだろう。これはVAR導入をIFABに認めさせるために独自テストを行ってきたオランダ(KNVB)の構想には無かったが、IFABのVAR原案には当初から入っていたため、同じく独自にテストを行ってきたと言われるアメリカ(MLS)のアイディアかもしれない。ワークショップでのライブテストについては主審のビデオチェックが行われたとのデータは無いが、TV中継もされていたオランダでのPSV対FC アイントホーフェンの試合では、そのようなシーンは無く、実際VARのライブテストが行われていることに誰も気がつかなかった。これは最初から主審のビデオチェックを行うプランが無かったとも思われるし、単純に難しい判定が迫られるシーンが無かったのも確かだが、当初の目的通り「試合の流れを妨げずによりフェアな判定を実施できた」という成功例だろう。

 

IFABが示したVARsの原案では主審が必要と判断した場合には自らピッチサイドのモニターでビデオチェックを行うことができると認められている。New York Red Bulls II対 Orlando City Bの試合では36分にRed BullsのFWが抜け出そうとするのをOrlando Cityの選手がペナルティーエリア際で引き倒して笛が吹かれ、主審はペナルティーエリア外のFKを指示していたが、50秒後に自らのビデオチェックを行うとジェスチャー、ピッチサイドのビデオをチェックし最初の笛から約80秒後にファールを犯した選手にペナルティーエリア外での得点機会の阻止としてレッドカードを提示した。82分にはOrlando CityのDFが相手選手と接触、主審は50-50のプレーを見ていたが、ビデオをチェックすべきとのVARの助言を受けて約60秒後に自らのビデオチェックを行うとジェスチャー、ビデオを数回見返し、プレーが止まってから約2分後にレッドカードでは無くイエローカードを提示した。この試合でVARを務めていたChapmanは2回目のシーンについて、レッドカードかどうか自分の見解は主審に伝えておらず、「(主審が)ビデオチェックすべきシーンであり、必要でもあった」試合後にコメント。

 

もちろんこの2回のシーン以外にもVARは任意に主審に助言を与えており、ロスタイムにはRed Bullsのゴールがオフサイドかどうか微妙だったシーンにおいてVARが即座にオフサイドでは無いと助言し、ゴールが認められている。

 

VAR制度導入の目的と前提は上記したように「プレーの流れを妨げずによりフェアな判定を行うため」であり、5-1で終わったこの試合で2回の主審によるビデオチェックで判定が出るまで計3分以上かかったことは意見が分かれるだろう。現在の制度案では、主審によってはもっと多くのビデオチェックを行う可能性もあり、これを認めればVARの助言という根本的な部分自体とは全く別に、この制度がフットボールを変えてしまう危惧がある。主審によるビデオチェックの回数を制限するというアイディアもあるが、「よりフェアな判定を下すための主審の権利を制限する」という形になるため、採用の可能性は低いはず。もちろんVARのライブテストはまだ始まったばかりであり、今回はVARを初テストする審判団が慎重に、かつ有効に「主審のビデオチェックの権利」を行使したとも言える。しかしオランダでの「平均11秒で主審に助言が可能」というデータから考えれば、-最終決定権が主審にあるという大前提を踏まえながらVARという『有能な副審』をどこまで信頼して最大限に活用できるか-が、今後の大きなポイントになるはず。フットボールを変えずにをVARを導入できるか、ハイス・デ・ヨングの「これはフットボールの革命ではなく、進化」という言葉が絵空事に終わってしまうかどうかはその点にかかっているだろう。

 

History is made as video replay technology is used in an official USL match

http://www.mlssoccer.com/post/2016/08/13/history-made-video-replay-technology-used-official-usl-match