常にごく普通であり続けた者にとっては、ヴィレム･ファン･ハネヘムは最高にノーマルな人物。だが少なくとも、彼のキャラクターにはかなり多くの矛盾がある。オランダで最も人気のある選手のプロフィールはコントラストに満ちあふれている。
彼は決然としているが繊細だ。容赦無く非常に寛容。平凡で謎めいている。予測不可能だが常に変わらない。気難しく、無愛想で、同時に心温かい。そして彼の人となりが触れることのできるのと同じくらい、彼は自分の最大の崇拝者たちを不安にさせる。
先日、ロッテルダムでの映画 "Willem"のプレミアでれぃれくたー デイヴィド･クライヴェフトはファン･ハネヘムへの深い憧憬を語っていた。この映画制作者はDavid Bowieに至るまで自分の作品で非常に多くの人々と話し、インタビューをしてきたが、だがファン･ハネヘムはどうだったのか？
いや、"デ･クロメ"には彼は距離を取ることを選んだ。あまりに偉大すぎる。あまりに力強すぎる。あまりに伝説的すぎる。あまりにアンタッチャブルすぎる。ファン･ハネヘムの扱われ方は何もかも熱狂的だ。最近のデ･カイプでも、彼が家族と共にフェイエノールトを見に通常の席に行くと、誰もが彼と写真を撮りたがり、誰もが話したがり、誰もが彼の側に行きたがるが、だが同時にお互いへの居心地の悪さのようなものが支配する。
ファン･ハネヘムはあらゆる讃美に対して恥ずかしさを見せる。一方で、彼のオーラは無条件で彼のファンである人々に畏怖の念を抱かせる。崇拝者たちが決して彼の首に飛びつかないのは、デ･クロメが本質的に抱きしめられるみんなの友人では無いからだ。彼らはまるでハチミツへ戸惑いながら近づく蜂の群れのように、もぞもぞと彼に近づく。
オーラはあるが、後光は無い。「私は自分が他の誰とも違うとは感じない」とファン･ハネヘムはしばしば言う。この言葉は彼の伝記のタイトルにしてもいいだろう。彼の言葉は美しく、そして事実でもあるからだ。ヴィレムは誰も見下さない、という。彼は普通の人々を、言葉の虚飾の無い人々を、尊大な言動の無い人々を心から愛している。
ファン･ハネヘムが監督時代にAZで長く影響力を持っていたダウンシンドロームの人物たち、クラースとルイに対して際限なく弱かったのは偶然では無い。
ナチュラル
彼が見栄っ張りなクラブオーナー ディルク･スヘリンハに反対して、無条件でこの2人のヴォランティアをトレーニングピッチの際にいて貰うことを好んでいたのは皮肉だ。完全なナチュラルさで彼はこの全てをやっていた。クラースとルイが笑えるように、ファン･ハネヘムは心から彼らのことを真剣に考えていた。
逆に、ファン･ハネヘムは話を作る者や偽物には天性の(ナチュラルな)アンテナを持っていた。一度そのアンテナを張ると、彼は容赦無く白黒を付けることができた。そしてファン･ハネヘムはヤマアラシに、敵意ある人に、執念深い人物に変わる。彼に罠を仕掛け、ゲームを挑んだ者は、時に不当なほどの逆襲を受ける。
誰もがファン･ハネヘムを好きな訳では無い。彼を気難しいと思い、あまりに推し量れない、シニカルすぎると思う人々はたくさんいる。だが大部分の人々の愛情は不滅で無条件だ。
マルコ･ファン･バステンやルート･フリットといったスターたちの神話が、その欠点が明らかになるにつれて徐々に力を失う一方で、ファン･ハネヘムは、クライフと同様に、その支持者たちのもとで永遠に不滅の存在であり続ける。
彼が何をしても、どれだけ俗っぽく、脆いところを見せても、彼は決して大衆が彼を支持し続けるその土台からは離れない。
彼の人気は彼が育った時代と切り離して考えることはできない。ファン･ハネヘムは60～70年代の子であり、自由の時代、個人主義の発展の時代の子だ。フットボーラー、アーティスト、ミュージシャンたちがアイドルやヴェレルト･スターとなり、ベビーブーム世代から無制限に崇拝された。
ファン･ハネヘムの周辺には完全に独自の支持層が形成された。ヨハン･クライフのアヤックスが詩人、流行を追う者、メディア、知識人にとっての磁石だとしたら、デ･クロメは普通の人、ロッテルダマー、地方人、簡素さにこそ美があると考える人々にとってのそれだった。
コントラスト
映画制作者 ジョス･デ･プッテルはかつてHard Grasでこのコントラストを美しく描写している。「ある者は他者を感動させることを望み、またある者は穏やかなままにさせておくことを望む。前者は不意打ちの存在感に頼り、後者の美は自分自身を容易には見せないことにある。これは美的感覚の2つの在り方であり、前者は獰猛で、血気盛んで、オープンで、独自性に満ちている。後者は思いやりに満ち、メランコリック、内的で、慎み深い」
ファン･ハネヘムはもちろん意識してこの支持層を作った訳では無い。それは自ずと出来上がったものだ。若きファン･ハネヘムの古い映像やインタビューを見れば、彼が常にそうだったのが分かる。真っ正直。慎み深い。大騒ぎをしない。
「見かけは無愛想だが心は優しい」という言葉は、特に彼を思い起こさせる。彼はストリートの人間でもあり、周囲に自分を合わせず、大衆(Volks)という言葉のイメージそのもの。ゼーラントと干拓地の男だが、港と街の男でもある。
彼はしばしばヨハン･クライフと共に一呼吸で、オランダ史上最高のフットボーラー2人として挙げられるが、ファン･ハネヘムのキャラクターはヨハン･ネースケンスの方が共通点が多い。彼らは同一のキャラクター、同一のメンタリティを代表している。ヨハン･クラーメルの映画 Johan Primeroをもう一度見れば、ファン･ハネヘムが人々の琴線に常に触れる部分は、まさにネースケンスがBarcelonaで触れていた部分と同じだ。
ファン･ハネヘムは常に何よりもまず1人のフットボーラーであり、第1級のフットボーラーであり、ロッカールームの若者であり続けた。信じられない左足の祝福を受けた頑強な肉体に高速の思考で、誰のプレーかが見て分かる選手だった。
彼の才能は平均化されたハイライト映像では認識するのが難しい。ファン･ハネヘムは多くの得点を決め、素晴らしいアシストをしたが、彼はスタディオンで試合全体を通して見るべきフットボーラーだった。イングランドの伝説的ジャーナリスト Brian Glanvilleが1974年のWKでのベスト･プレイヤーが「ファン･ハネヘム。疑う余地は無い」と常に言っていたのは偶然では無い。
まさにフットボーラー ファン･ハネヘムはできる限り完璧な形で見なければならないからこそ、Andere Tijden Sportの映像"Willem"は成功した。この映像はフットボーラー ファン･ハネヘムをあらゆる面で描いている。天才ぶり。無情さ。緩慢さ。無類さ。利便さ。決定的な仕事ぶり。繰り返し現れる左アウトサイドでのキックに注意しろ。これはフットボールの歴史上決して見れないものだ。
彼はフットボーラーとしての自分を要約して『急ぐな、時間を稼げ』とかつて言っていた。クライフィアーンス(クライフ語)のようなフレーズだが、決してそうではない。ファン･ハネヘムの言葉は抽象的でも他に類の無いものでもなく、むしろ物事のシンプルさを証明している。ファン･ハネヘムはプレーを際限なく複雑にしようとする人々に対してアレルギーを起こしたかのようにリアクションを起こす。彼のフットボール分析も常にその気取らなさに支配されている。
監督としての彼と一緒に仕事をしたフットボーラーたちは、しばしば彼の細かい指示よりも、プレーを見通す推奨のようにクリアな目に感動していた。彼は複数の問題を2，3のセンテンスで本質に戻し、ヴィレムの世界では物事をそれ以上に難しく考える必要は無い。
ヴィレム･ファン･ハネヘム、普通で、しかし全くユニークだ。
Sjoerd Mossou
https://www.ad.nl/nederlands-voetbal/heel-gewoon-en-toch-volkomen-uniek~a3ac80b1/
