2024年9月5日 J League ルヴァンカップ: 名古屋 - 広島でのオフサイド判定シーンが話題になっており、日本ではまだあまり専門的に解説されていないので紹介。
名古屋のkeeperからのロングボールで両チームの選手が競り合い、守備側の選手がボールに触れ、keeperがボールを蹴った時点ではオフサイドポジションにいた攻撃側の選手が拾ってそのままシュートを決めたが、オフサイド判定。
論点は「守備側の選手がボールに触った」のが意図的なプレーだったかどうか。これは長年「あまりに守備側に不公平」と度々多くの議論を呼んだ末に、遂に2023年1月からIFABが夏の競技規則改定を待たずに半年前倒しで各組織に解釈変更のガイダンスという形で通達を出す形で改正を行ったルールだ。
以下、JFAの日本語訳:
オフサイドポジションにいる競技者は、相手競技者が * 意図的にプレーしたボールを受けたとき、意図的なハンドの反則を行った場合も含め、利益を得ているとはみなされない。ただし、意図的なセーブからのボールを除く。
*「意図的なプレー(意図的なハンドを除く)」とは、競技者がボールをコントロール下において、次のプレーができることである。
◦ ボールを味方競技者にパスする、
◦ ボールを保持する、または、
◦ ボールをクリアする(例えば、ボールをけって、またはヘディングして)。
これは、競技者がコントロールできる状況にあるボールをパスする、保持しようと試みる、または、クリアすることがうまくいかなかったり、失敗したりした場合であっても、ボールを「意図的にプレーした」という事実を無効にするものではない。
競技者がコントロールできる状況にあるボールを、結果的に、「意図的にプレーした」とみなす指標として、必要に応じて、次の基準が使われるべきである。
◦ ボールが長く移動したので、競技者はボールをはっきりと見えた。
◦ ボールが速く動いていなかった。
◦ ボールが動いた方向が予想外ではなかった。
◦ 競技者が体の動きを整える時間があった、つまり、反射的に体を伸ばしたりジャンプせざるを得なかったということでもなく、または、かろうじてボールに触れたりコントロールできたということではなかった。
◦ グラウンド上を動いているボールは、空中にあるボールに比べてプレーすることが容易である。
今回のケースを改めて見ると、遠くからの予測可能なボールであり、守備側の選手は十分落下地点に間に合って「体の動きを整える時間」を得ているのが分かる。競技規則の規定では「コントロール可能なボール」と十分判断できるはずだが、なぜオフサイド状況のリセットが行われず、そのままオフサイド判定となったのか?それは、このケースではそもそも「攻撃側の妨害」によって守備側がボールをコントロールできなかったと判断されたためだ。
攻撃側の妨害
「攻撃側の選手が妨害することで相手のミスを引き出し、それによって本来受けるべきだった罰を受けずに利益を得ることは認められない」というのは近年のいくつかのルール変更で体験することが増えてきた解釈だ。1つ例を挙げる。
2024年5月31日 J League: 鳥栖 - FC東京
FC東京の後方からのロングボールに対してオフサイドポジションにいた攻撃側の選手が相手に競り合いに行き、競られた守備側(鳥栖)の選手が中央に向けて出したボールがズレたことでFC東京が得点したが、VARが介入してオフサイド判定に。
守備側の選手は相手を背負いながらも十分ボールをコントロールできる状況だったようにも見えるが、中央に向けてボールを出そうとした際に相手のプレッシャーを受けており、「攻撃側の妨害」によってボールをコントロールできなかったため、オフサイド状況はリセットされないと判断された。
つまり、こうした「攻撃側の妨害」が発生している時点で、守備側の選手がプレーしようとするボールが「コントロール可能かどうか」では無く、守備側の選手がプレーしたボールが「コントロールされたものかどうか」で判断される事になるというのが、現時点では国際的な基準という印象を受ける。
以下、いくつかの例:
2024年3月31日 La Liga: FC Barcelona - Las Palmas
2024年3月18日 Eredivisie: sc Heerenveen - Feyenoord
さらに驚くべき事に、攻撃側の妨害が無くとも、「守備側の2選手の衝突」でボールがコントロールされなかったためにオフサイド状況がリセットされなかったという判定例:
2024年3月11日 Eredivisie: PEC Zwolle - FC Volendam
このように現状 このルールは「ボールがコントロール可能だったか」よりも「ボールがコントロールされたか」に焦点が置かれて判断される事が多く、ようやく改善されたルールが期待されたようには運用されていないように感じる事が多いのが事実だ。
最も極端な例:
2024年2月25日 Eredivisie: Almere City FC – Feyenoord
試合後にボールをコントロールできなかったAlmere CityのJochem Ritmeester van de Kampは「ボールを受けようとしたら、芝でバウンドが変わった」 (Almereのフィールドの劣悪さは有名) と語った。これが守備側のミスと判断されないなら、競技規則にある「クリアの失敗」は一体どういう状況で起きるのだろうか?