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ビデオ・アシスタント・レフェリー制度の現在地: WKで示された模範的介入基準

ロシアでのWKが始まり、グループステージがほぼ1巡。「VAR制度での経験が足りない審判たちによって大きな混乱が起きる怖れがある」という事前の危惧が嘘のように、VAR制度がここまでほぼ完璧に機能していることは大きな驚きであり、世界中にポジティヴなインパクトを与えていると言えるだろう。VAR制度の運用が円滑に言っている理由はハッキリしており、「スピーディなチェック」、そして「かなり高い介入基準」の2つだ。

 

チェック・スピードの速さ
ビデオ判定が試合に与える影響を最小限に留めるため、VAR制度でチェックがスピーディに行われることは基本であり、大前提でもある。各国のテストでは可能性のあるシーンでのチェックでリスタートが遅れるシーンも少なくなかったが、この大会ではそれがほとんど見られず、ビデオ判定を実施していることを感じさせないほど。こうしてスタンドのファンやTV視聴者にストレスを与えずに水面下で非常にスムーズに「明確な誤審では無いケース」が排除されるのはVAR制度の理想であり、それがトップレベルの試合で実現可能だと実証しているこの大会の審判団はを大きな賞讃に値するだろう。実際WKという準備期間の限られたコンディションの特殊な性質を考えれば驚嘆すべき事態だ。

 

ビデオ・アシスタント・レフェリー制度の現在地:全てはフットボールを変えないために - 我がフェイエノールト

 

非常に高い介入基準
もう一つ顕著なのがVARが介入するために超えなければならない「明確な誤審」のバーがかなり高く設定されていること。「疑わしいシーン」もほとんどがチェックで取り除かれてレビューには至らず、VARが「明確な誤審では無いと思うけれど念のために映像を見てくれ」と主審に求めるシーンは見られない。『本当に明確な誤審が確信された時だけVARによる介入が行われる』というのは個人的にも望んでいた基準であり、それがこの大会で見れていることは嬉しい驚きだ。

 

ビデオ・アシスタント・レフェリー制度の現在地:オン・フィールド・レビュー実施条件の不透明さ - 我がフェイエノールト

 

この高い介入基準が各国のコンディションに適用され、グローバルスタンダードとなるのだろうか?という疑問はやや尚早ではあるが、非常に気になるところでもある。Collinas Erbenのアカウントは「介入基準は各国の協会で議論されるべきもの。私もこの介入基準はよく、模範となると思う」と指摘しており、実際に「我々はここまでハードルを高くしなくてもいい」と考える組織もあるだろう。特にこの大会は競り合いの中での押し引き、掴み行為に対するファール基準が高いことも顕著であり、この判定基準だと突然変わりすぎるコンディションも多いはず。しかし少なくとも『本当に明確な誤審が確信された時だけVARによる介入が行われる』という介入基準の変更はVAR制度を前進させるものになるはずだ。

 

 

 

何が明確な誤審か?
常にVAR制度のテーマである「何が明確な誤審か?」の議論に対し、この大会は早い段階でその基準が示されたように感じる。大会3日目のグループC フランス-オーストラリアではウルグアイの主審 Andrés Cunhaが流したシーンに対し、アルゼンチンのVAR Mauro Viglianoが介入、OFRを経てPKが与えられた。一方で同じ3日目のグループD アルゼンチン-アイスランドの試合ではポーランドの主審 Szymon Marciniakの判断に対してアメリカのVAR Mark Geigerが、アイスランドペナルティエリア内での微妙な競り合いに対して「明確では無い」と介入せず。この2つのシーンは前者が「PKが与えられなければならないシーン」なのに対し、後者は「PKを与えることもできるシーン」と解釈でき、後者は明確な誤審では無い。

 

主審の自由裁量の保護
『本当に明確な誤審が確信された時だけVARによる介入が行われる』という介入基準の利点として、主審の権限である自由裁量が守られることが挙げられる。VARは主審がその事象を見て判断したシーンに対しては『自制する』がモットーであり、よほど明らかで避けがたい誤審でなければ介入しない。つまり「PKが与えられなければならないシーン」はVARによって見逃されないが、「PKを与えることもできるシーン」では常に判定を行う主審の判断によって試合の判定基準は今後もグレー・ゾーンの中で幅が持たれることになる。これは『VARが主審の自由裁量の権利が改めて強調し、その権威を強調する役にも立っている』と言える。

 

重大なミスも
ほとんど理想的と言えるほど順調な運用の中、一方でVAR制度における重大なミスも起きた。グループF スウェーデン-南コリアではエルサルバドルのJoel Aguilarが主審、アルゼンチンのMauro ViglianoがVARを務めていたが、主審が流したPKを与えなければならないシーンに対し、VARが明確な誤審と助言。プレーはそのまま継続しており、南コリアが可能性のある攻撃を行っていたが、主審はなぜか明らかにニュートラルな状況では無い攻撃の途中で笛を吹き、試合を止めてしまった。結果的にOFRで判定が修正されてPKが与えられたが、OFRの結果が違えば得点の可能性が主審によって妨害されたケースとなっていたところだった。VAR制度においてこれは絶対に避けなければならない状況であり、状況から見るとエルサルバドルの主審 Joel Aguilarは重大かつ致命的なミスを犯したと言われてもしょうがないだろう。

 

もう一つは重大なミスというよりは多少劣り、非常に強い疑問の残るシーン。大会2日目のグループB ポルトガル-スペインの試合でイタリアの主審 Gianluca RocchiがDego Costaのゴールを判定した後、同じくイタリアのVAR Massimiliano Irratiがチェックを行ったが、ゴール直前のDego CostaのPepeへの腕による打撃行為を明確な誤審と判断せず、レビューにさえ至らずにそのままゴール判定を支持。大会4日目のコスタ・リカ-セルビア戦ではセネガル人主審 Malang Diedhiouが見逃していたと思われるAleksandar Prijovićの打撃行為に対し、VARを務めていたあの悪名高きフランス人 Clément Turpinが奇妙な介入を行い、OFRによってイエローカードが与えられた。大会5日目のチュニジアイングランド戦ではコロンビア人主審 Wilmar Roldánがこれよりも軽い打撃行為を取ってPK判定。しかしその2つともDego Costaの打撃行為よりも明らかに程度が軽いものだった。前者は主審の自由裁量の圏内という(やや厳しい)解釈ができなくもなく、後者も「レッドカードかどうかの明確な誤審では無く、重大な見逃しについてのOFR」と解釈ができなくもないが、この大会が進むにつれて疑問は解けてくるだろうか・・・