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ビデオ・アシスタント・レフェリー制度の現在地:オン・フィールド・レビュー実施条件の不透明さ

先週のジュピラーPOs スパルタとエメンとのフィナーレ2試合、そしてドイツでのDFB-Pokalフィナーレ FC Bayern-Eintracht Frankfurt戦でもやはり「明確に思われる誤審」が主審のオン・フィールド・レビューによって見逃される事態が起きた。それぞれのケース、その結果になった原因は別々だが、OFRが行われるための条件が未だ明確では無いというVAR制度の根本的な問題が依然として存在していることが改めて示されたとも言える。

 

5月17日のエメン-スパルタ戦は状況が幾分ハッキリしている。スパルタのFKの際、エメンのゴール前ペナルティエリア内でバニンクがスピーリングスを掴み倒し、主審 リントハウトはファールを取らなかったがVAR マンスホットの連絡を受けてOFRを実施。しかし明らかな掴み行為に思われたこのシーンの映像を見たリントハウトはノーファールとの判定を下した。試合後にTVカメラの前でリプレイ映像を見て説明を求められたリントハウトは「OFRでの映像ではPKだとの確信を持たなかったが、この別角度からの映像を見るとこれはPKだ」とコメントしている。

 

5月20日のスパルタ-エメン戦の状況はさらに明確だ。ペナルティエリア内に侵入したフライデーがフェルトマテに手を掴まれて倒されたが、明確なPKに思われるこのシーンで主審 ヒフラーはファールを取らず。VAR ブロムからの連絡を受けてOFRを行ったが、やはりヒフラーもノーファールとの判定を下し、試合後にカメラの前でリプレイ映像を見つつ「ケヴィン(・ブロム)はあのシーンでPKにするには程度が軽すぎると思うと意見を伝え、それを受けて私は自分で映像を見に行ったが、映像を見ても私はPKでは無いと思った」

 

ヒフラーの判断はさておき、興味深いのはVAR ブロムがレビューによって「PKでは無い」という主旨の意見を持っていたという証言だ。VARのレビューを受けて主審がOFRを行うかの判断を下す際、運用ルールを定めたVARハンドブックは何ら条件を規定してはいない(「事実に基づく判定であるならOFRを行う必要は無い」とのガイドラインが存在する程度)。そのため、このままルールを読み取れば確かにVARがレビューを行った時点で主審にはOFRを行える選択肢が常に無条件で与えられていることになる。

 

ちなみにKNVBはtwitterの公式アカウントで「VARと主審が判定について異なる意見を持った時、主審はOFRを選ぶことができ、最終的に主審が判定に責任を持つ」と説明しているが、スパルタ-エメン戦でのヒフラーとブロムがそのケースで無かったのは明らかだ。

 

5月19日のDFB-Pokalフィナーレ FC Bayern-Eintracht Frankfurt戦では試合終盤にFrankfurtのペナルティエリア内でKevin-Prince BoatengがJavi Martinezに対して明らかなファールを冒したように思われたが、主審 Felix Zwayerはファールを取らず、OFRで映像を見返してもノーファールと判定した。

 

主審 Felix Zwayerは2日経って5月21日に判定を説明。「Martinezが倒れたのは見えていたが、2人の競り合いで奇妙な点は私には感じられなかったためにCKと判定した。そこからビデオ・アシスタントのBastian Dankertと相談し、彼が映像では接触しており、私にもう一度自分で映像を見るように要請してきた。映像で接触は確認したが、私の見解では激しい接触では無く、Martinezは足を蹴られたことによる動きの変化も無く、もう片方の足を持ち上げ、前へ動いて倒れるまで安定して立っていた」

 

「Boatengのキックによる接触は処罰されるべきものか?私としてはそうでは無い。映像からMartinezが倒れる原因となるような接触は私には見えなかった。接触とその結果が私にとって一致しなかった。映像から元の判定を修正するだけの確信を与える接触は見いだせなかった。2日間経っても私は自分の判定を支持している」

 

「OFRで確認した映像選択には満足している。Bastian DankertによればTVもゴール裏からの同じ素材を放送していている。私はすでにほぼ確信していたが、そこからもう一度シーンをリアル・スピードで通して見た。たから私としてはもう何の疑問も無かったし、他のアングルも必要無かった。私はすでにこのシステムでかなり多くの経験を持っている」

 

Collinas Erbenによればブンデスリーガでは「VARが明確で一目瞭然の誤審とランク付けした場合に、それが主観に拠る判定ならば主審はOFRによって説明を受ける」となっており、VARは明確な誤審と判断していた可能性が高いと思われたが、ZwayerのコメントではVARがそこまでの確信を持っていたかはハッキリしない。

 

いずれにせよIFABは今のところOFRを主審の無条件の権利として保護している。そのため結果的に各コンペティションで実施基準に大きなグレー・エリアが存在しており、実際審判たちの中で統一もされていない印象を受ける。

 

 

極端に言えばグレー・エリアが存在すること自体は問題では無い。しかしオン・フィールド・レビューがVARが「明確で一目瞭然の誤審を見つけた時」ではなく、「明確で一目瞭然の誤審の疑いを持った時」、さらに「明確で一目瞭然の誤審では無いが、主審が映像を見た方が良いと感じた時」にも行われるなら、VARによってはその回数が極端に増えることもあり得てしまう。

 

最も大きな問題はオン・フィールド・レビューは基本的にVARの提供するリプレイ映像によって行われるという点であり、その状況に対するVARの見方が主審の判断に大きな影響を与える。主審には別アングルの映像を要求するなどの権利もあるが、判定に対して疑問を持っているVARが、その根拠としてベストの映像を提供していると思うのは至極普通だろう。VARが「明確で一目瞭然の誤審を見つけた時」なら、後はOFRで適切な映像を主審に提供できるかはVARの能力の問題になる。しかし「明確で一目瞭然の誤審では無いが、主審が映像を見た方が良いと感じた時」に、VAR目線の映像を主審に提供する行為自体に何か意味があるのだろうか?主審が自分の判定に納得するためか?判定に不満を持つ選手たちを納得させるためか?

 

オン・フィールド・レビューはVAR制度の中で極端に時間がかかる「イレギュラーな行為」であり、IFABは主審に時間的プレッシャーは存在しないという立場だが、OFRでなるべく時間短縮が必要というのはほぼ全てのテスト国で言われていることでもある。OFRの目的がそもそも何なのか、どの条件でそれが行われるべきなのかは全員に対してもっと明確であるべきだろう。Collinas ErbenによればIFABはVARハンドブックの改訂に取り組んでいるとのことであり、できれば欧州での新シーズン前にもう少しルールが明確になって欲しい。

 

IFABのVARテスト分析レポート(2): ルールの曖昧さ問題

http://mijnfeyenoord.hateblo.jp/entry/2018/01/29/182026