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「結果以外ほとんど間違い」だったMainzでの前半終了後のビデオ判定:原因とその後

4月16日のブンデスリーガ 1. FSV Mainz 05 - FC Freiburg戦で前半終了の笛の後に行われたビデオ判定によって前半ラストプレーでFC Freiburgの選手に自陣ペナルティエリア内で明確なハンドリングがあったとして、大部分ロッカールームまで下がっていた選手たちが呼び戻された一件について、一体何が問題であり、どこにその原因があったのか?

 

競技規則では「ハーフ終了後、主審がピッチを出た後は判定を修正できない」と定められており、当然ピッチを出る前主審は前後半ラストプレーでの判定を修正できる。VAR制度でもハーフ終了の笛の後のビデオ判定は考慮されており、VARハンドブックにもガイドラインが示されているが、ロッカールームまで戻った選手たちが呼び戻されるという事態は当然 ノーマルな状況として想定されたものではなく、さらにMainzでは主審が明らかにピッチ外に出てから判定を修正したために試合後も大きな問題となった。

 

IFABのVARハンドブックによるガイドライン
「VARは副審と同じであり、主審はピッチを出るまではハーフ終了前のプレーでの判定をVARの助言によって修正できる。VARがラストプレーでの明確な誤審の可能性を見つけた場合、選手たちにピッチを去るのを止めるように主審が伝えられるように、VARはただちに主審に連絡しなければならない。その後は通常上のVAR制度の手順によって対象の事態が取り扱われる」

 

「こうした問題を避けるため、ハーフの最後の数分間では、チェック/レビューの可能性があれば、VARはただちに主審に連絡しなければいけない。それにより、可能なら、主審はプレーを止めるかリスタートを遅らせることで、ハーフ終了の笛を吹いた後のレビューが行われるのを避けることができる」

 

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Mainzでの試合では、映像を見る限り、主審 Guido Winkmannがすでにピッチを出てからVAR Bibiana Steinhausの連絡を受けたという印象を受ける。その後主審がカタコンベへの通路に近づいて選手たちに戻るように伝え、オン・フィールド・レビューのためにピッチの反対側のレビュー・エリアに向かっている。

 

試合後の主審 Guido Winkmannの説明:
「試合中ハンドリングがあったかもしれないという疑いは私には全く無かった。ケルンから私に自分でチェックしてくれという進言があり、すでに前半終了の笛を吹いていたのですぐに選手たちに待つように言った。それからチェックに走り、そのシーンを見て罰すべきハンドリングと判断した。プレー中に確認できなかったのは残念だが、ビデオ審判のおかげで修正することができた」

 

「ハーフタイムの笛は試合を中断する(unterbrechen)だけ。試合終了の笛の後なら、我々はもう介入できない。これはルールのテクニカル面において非常に重要なこと。私は3/4はすでにロッカールームに戻っていたFreiburgの選手たちに呼びかけ、これからすぐにチェックを行うから待っていてくれと伝えた」

 

「DFBの研修でもこういう状況について話はしているし、オフライン・テストでもこういう状況はあった。試合終了の笛の後はもう介入できないが、前半終了の笛は試合を中断するだけであり、プレーのテクニカル的なペナルティも可能。試合終了の笛の後はレッドカードの可能性だけだ。試合終了の笛によって主審の力で終わっていたかつての時代とは違う。これが今のルール。私は1989年から主審をしているが、当時からすでにこのルールで行われている」

 

http://www.kicker.de/news/fussball/bundesliga/startseite/721780/artikel_halbzeit-elfer-in-mainz_das-sagt-winkmann.html

 

DFBのVARプロジェクトリーダー Lutz Michael Fröhlichの説明」
「ルールには主審はまだピッチにいる限り判定を修正できるとあり、昨日はそのケースだった。ビデオ・アシスタント Bibiana Steinhausが主審 Guido Winkmannにコンタクトを取ったのは、彼がまだピッチを去る前。これはケルンのビデオ・アシスト・センターで毎試合録られている音声と映像の記録から証明されている。付け加えるなら、ハーフタイムの笛は試合終了の笛と同じでは無い。ハーフタイムの笛は試合を中断する(Spielunterbrechung)だけであり、試合を終わらせる(Spielbeendigung)わけでは無いんだ。それはDFBのルールに書かれている。今回の経経緯もルールどおりに行われている。時間がかかったのは間違いなく良くなかったがね」

 

「今回のような事が繰り返されないために、ビデオアシスタントはペナルティエリア内でのハンドリングをチェックする時には主審に直ちに連絡しなければいけない。主審が状況をそもそも理解していないということにビデオ・アシスタントがいつ気づくか、それが非常に重要なんだ。その連絡を受けて初めて主審は次に試合が止まった時に実際に試合が止まるのか、それともハーフタイムはフルタイムの笛に関して不明確な状況が起きているのかを認識できる。この連絡がMainzでは遅すぎた。最初の連絡は主審がハーフタイムの笛を吹いて戻る途中だったが、サイドラインはぎりぎりまだ超えていなかった」

 

https://www.dfb.de/news/detail/winkmann-so-kam-es-zum-elfmeter-fuer-mainz-gegen-freiburg-185168/

 

主審とVARのどちらもミス:

WinkmannとFröhlichの説明にルールについて一部意味不明な部分があるが、まずは主審とVARのコミュニケーションについて。

 

Fröhlichの説明が事実だとは映像からは感じられないが、それが事実かどうかに関わらず、今回の騒動はまずVARのSteinhausの責任がかなり大きいのはVAR運用ガイドラインから明らか。おそらくPK見逃しの可能性に気づいてチェック→レビュー→明確な誤審を確信してから主審に連絡という手順を取ったと思われるが、完全に間違えており、時間帯的にはチェックの段階で連絡しなければならなかったし、時間帯に関わらず、「明確な誤審の疑い」を感じてレビューを開始した段階で主審に連絡義務があった。つまり基本的な運用ルールもハーフ終了時の注意事項も実践できない『間違い』を犯していた。

 

そしてFröhlichの説明が事実だとしても、主審 Winkmannの行動にも当然『間違い』はあった。"仮に"「主審がVARの連絡を受けたのがピッチ内でなら、それからピッチを出ても判定を修正できる」としても、VARの連絡を受けた時点で即座に立ち止まるべきだったし、耳に手を当てることもなく、そのままごく自然にピッチ外に出たのは事態把握が遅すぎたと言わざるを得ない。

 

オランダでの反応:

オランダでも大きく報道されたビデオ審判に関する騒動に、KNVBスポークスマンもコメントしている。


「オランダでも同じ事が起こり得る?'ja'であり'nee'だ、ドイツでどういうルールか我々には判断できないが、我々のもとではビデオ審判がアクションを起こせる状況になったら、プレーが継続中でも即座に主審とビデオ審判の間でコンタクトが取られる」


「我々は両者のコミュニケーションが常に上手く行くようにトレーニングを行っている。すでに数年間ビデオ審判の訓練とテストを重ねてきたし、全ての主審とビデオ審判が実際に仕事を始めるるまで最低数試合テストをこなすようにしている。例えばデ・トゥーコムストでのFuture Cupでもテストを行った。ルールにより、主審はビデオ審判のいる公式戦でまず最低3試合笛を吹かなければならないし、ビデオ審判も最低5試合で練習しなければいけない」


https://nos.nl/artikel/2227740-kan-videoincident-bundesliga-ook-in-nederland.html

 

これまでのオンライン・テストやFOXで公開された主審との通信シーンを見ても、オランダではVARはチェック、レビューに関わらず、VARが何かしら疑いをもった時点で即座に主審と連絡を取っている印象を受ける。VARハンドブックでは「チェックでは主審と連絡を取る必要は無く、レビューでは連絡しなければならない」という表現のため、確かに運用ルールに抵触はしていないだろう(どうやってチェックとレビューの違いを確認しているのかが謎ではあるが)。

 

誤訳:

そしてWinkmannとFröhlichの「試合終了の笛の後は修正できない」というルール説明が、Kickerによって新たな『間違い』の発見に繋がる結果に。

 

競技規則第5条のドイツ語版では主審が判定を修正できない3つの場合として「試合が再開された場合」、「(延長を含む)前半か後半が完了し、競技ピッチを去った場合」、「試合が完了した場合("das Spiel beendet hat")」と書かれているが、最後の条件は英語版では"terminated the match"となっており、ここでのIFABの意図は「試合が中止された(ドイツ語では"das Spiel abgebrochen hat")場合」というものだった。

 

2つ目の「(延長を含む)前半か後半が完了し、競技ピッチを去った場合」には当然「試合終了の笛の後」も含まれており、「試合終了の笛の後はもう修正できない」という2人の説明は不可解だったが、翻訳上の誤解があったことが判明した。

 

IFABの事務局長 Lukas Brudは「Mainz-Freiburgの試合によって我々のルールがハッキリ認識されていない事に気づいた。ここは改善したい。IFABは英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語で競技規則を公開しており、言語によって差異がある場合は英語版が正式だ」とコメントしている。


http://www.kicker.de/news/fussball/bundesliga/startseite/721991/artikel_mainz-spiel-deckt-uebersetzungsfehler-in-fifa-regeln-auf.html

 

追記:

この出来事を受けて、2019-2020シーズンの競技規則では主審の判定修正の条件の文章が"terminated the match"から"abandoned the match"に、「ハーフ終了後に主審がピッチを出ていても、RRAにモニターを見に行くためか、すでにピッチを去っていた選手たちを呼び戻すためであるなら、主審がピッチを出た後でも判定を修正できる」と修正された。