ケヴィン･ブロムがトニー･フィレーナの方に走る。このフェイエノールダーがルイジ･ブラインスへ不器用なファールを犯した。リーチが掛かっていたフィレーナにブロムがイエローカードを提示。このカードがディルク･カイトの物語の序章と知るものは誰もいなかった。
フェイエノールトでタイトルを獲る。カイトはロッテルダムでの最初の時期でそれに成功できなかった。しかし5月始めにランズティートルがフェイエノールトのものだというのは誰もが確信していた。18年ぶり、フットボール界では永遠のような長い時間だ。
フィテッセに勝利し、ライバルのアヤックスがPSVに敗れた時点ですでにロッテルダムにはお祭りムードが生まれていた。「周りの人たちがみんなもう僕らにおめでとうと祝福してくれるんだ。それに対応するのがどれだか難しかったか」とカイトは7ヵ月後に振り返って自問する。
プレッシャー
その難しさは実際露わにもなった。任務はシンプル、同じ街のエクセルシオールに勝つ「だけ」で戦利品は手に入るはずだった。小規模のヴァウデスタインはフェイエノールト･サポーターで大部分埋め尽くされ、歴史的午後の舞台は整っていた。
しかし違う結果に。チームは3-0の敗戦。プレッシャーが高すぎた。カイト：「最近ペーター･ボスが、メディアで全く味方を得られなかったと言っているのを聞いた。ああ、僕らは全てが味方していた。自分では読まなくても、周りの誰かから伝えられるんだ」
「僕らの上にオランダ中がのし掛かっているような気分だった。そして僕らのチームはすでに成功した経験を持った選手がほとんどいなかった。ベーカーは獲得していたけれど、ティートルは別物」
「それに数100m離れたデ･カイプでは僕らがスハールのを持ち帰るのを待っているファンでいっぱいなのも分かっていた。試合の周りのことが突然重大なことになり、それがグループにとって非常に難しかった」
カイト自身も当時難しい時期を過ごしていた。キャプテンではあったが、しばらくスタメンのポジションを失っていた。「その状況に対応するのは難しかった」とこのFWは振り返る。「でも自分が信じ続けてハード･トレーニングをし続けたのはいま誇りに思うよ。チームがピッチ上で自分を必要とする時がまだ来るのは分かっていた」
彼の時
クラーリンゲンでカイトは64分に途中出場。1分も経たずにエクセルシオールが3点目を決め、それからフィレーナにイエローカードが出た。「これで自分の時が来たというのは分かった」とMFの出場停止を活かすことになったカイトは語る。
1週間後 カイトはティートルを掴むための2回目の挑戦でキックオフに参加。複雑な気分でキャプテンマークを巻いてピッチに立っていた。
「トニーにとってもの凄く残念なことだと思っていた。僕は彼と彼の父親と強い絆で結ばれているんだ。同じような経験をしているからね(フィレーナはシーズン中に母親を亡くし、カイトはキャリアの中ですでに父親を亡くしている)。彼が母親を亡くした後、悲しみを脇に押しやって良いプレーをしていたのはとても誇らしく思うよ」
5月14日日曜午後。こうしてそれが必然だったかのように、フェイエノールトはヘラクレス･アルメロとの対戦に向けて36歳の船首像 カイトを先頭にピッチに入った。
「僕は数週間プレーしていなかったけど、その一方で自分でプラスαのトレーニングをしていた。砂場を走り、トレーニングでかなりシャープだった。いつ出番が来るか分からないから毎試合しっかり準備していたんだ。そしてその日が来た。僕のキャリアで最も重要な週だった」
とてつもないプレッシャーは熟練のスピッツにもしっかりと感じられた。「僕は数週間プレーしてない状況で、あの試合で力を示すしかなかった。僕が何とかしてくれるとみんなが僕に向けて言っていた。選手たちもロッカールームで僕がいるから心配はしていないと僕に言っていた。だからプレッシャーは感じていたよ」
そして坩堝と化したデ･カイプへ。バナー、フラッグ、花火、歌にクラブ愛とティートルへの渇望が包装されていた。「僕はCLフィナーレでもプレーしたし、WKフィナーレにも出た･･･ でもスタディオンであの日ほど多くの感情を感じたことはかつて無かった」
カイトがその感情をさらに高いレベルに引き上げるのにはわずか38秒しか必要無かった。マイク･テ･ヴィーリクが滑り、そこからカイトの火が出るようなシュート。
頼られていたのは彼だった。頼られていたのはあれだけ苦しんでいた男。頼られていたのはフィレーナの出場停止によってプレーすることができた男。頼られていたのはここまでフェイエノールトでリーグ戦99得点を決めていた男。頼られていたカイトがゴールを決めた。「あの瞬間、僕は自分のベストだった」
先制点だけでは留まらない。さらに2得点。ディルク･カイト、1980年7月22日カトワイク生まれの彼はあの日曜日にロッテルダムで永遠のヘルトとなった。
カイトは周囲の人々が溢れる涙を流しているのが見えた。彼のハットトリックにより、1999年以来のランズティートルがもたらされた。「あれだけ多くの人が泣くのはこれまで見たことがなかった。自分自身では泣かなかったけど、とても感情的になったよ」
当時36歳のハードワーカーにとって全てに答えが出た。「歓び、怒り、失望、血と汗とトレーニング。全てがあったシーズンだった。そしてロッテルダムの人々が、実際オランダ中の人々が誇りに感じてくれているのを見れば･･･ それこをが最も素晴らしいことだよ」
https://nos.nl/artikel/2209122-mijn-2017-dirk-kuijt-en-zijn-ultieme-sprookje-bij-feyenoord.html
